米国における電子書籍のメリット

  • 2015.08.27 Thursday
  • 22:16
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作者の国でありながらこの国では久しく絶版になっていたエラリー・クイーンのドルリー・レーンシリーズ四冊がやっとAmazonのKindleおよびkoboの電子書籍として登場した。(というか既に出ていたのかもしれないが、私がチェックするのは半年おきくらいなので…)

アメリカと日本では本の流通システムがまったく違う。アメリカでは再販制度がないため、本の値引きも頻繁に行われている。その代わり、非常にシビアで、たとえ評価が高い書籍でも、売れなければあっというまに絶版になってしまうのだ。書店にとって売れない在庫を抱えるのは損失になり、出版社にとっても在庫を抱えれば抱えるほど無駄な出費になるらしい。日本語訳の再販が続いているのに英語版のオリジナルが絶版、というケースも多く、昔日本語で読んだ英語の本の原書を読みたい、と探してもなかなか入手できず、がっかりすることも多い。

エラリー・クイーンは米国におけるミステリージャンルの父(二人なので正確に言えば両親というところか…笑)である。数々の名作品を生み出し、のちのミステリー作家たちに大きな影響を与えただけでなく、長きにわたってエラリー・クイーン・ミステリーマガジンを発行し、そこから数多くの新人を輩出してきた功績も大きい。

そんな彼らであるのに、今、米国内では彼らの作品は国名シリーズくらいしか紙の書籍が出ていないのである。英国の作家であるアガサ・クリスティーの本なら何度も再販され、いくらでも買えるのに…。

ここでちょっと脱線。

私はここ数年koboのブックリーダーを愛用している。Kindleとの違いは、米国のkoboが各地の小さな書店と提携していることだ。私は自分のブックリーダーを家の近所にある古本屋で購入した。ここは古本屋だが、新刊も頼めば取り寄せてくれる。こことkoboが提携しており、koboの口座を開設するにあたって、この古本屋を指定すると、私の口座はこの店と提携したものになり、koboから電子書籍を購入するたびに、この店に売り上げのいくらかが支払われる仕組みだ。そのため、Kindleよりは良心的な気がするのだ…。ごくたまにKindleにはあるがkoboにはない書籍もあるが、たいていのものはほぼ共通なので今のところあまり問題はない。

 
我が家は狭いのに本棚から本があふれ出し、最近は床に進出してきつつあるため、数年前から再読の可能性が低い本は古本屋で処分し、電子書籍で買えるものは少しずつ切り替えている。収納の問題だけではない。紙の本の良さもわかるが、年齢を重ねてくると、実は軽くて持ちやすく、文字の大きさや行間も簡単に調節できる電子書籍リーダーはとてもありがたい。わからない単語はそのままそこで調べることもできるし、印象に残る場所はハイライトしてあとで簡単に探すこともできる。

私のリーダーはバックライト機能つきの白黒なので、写真や挿絵が豊富なものには向かないが、普通の書籍としては非常に読みやすい。日本語のものは日本の電子書籍マーケット事情のため、海外在住者は購入できないが、青空文庫のものならkoboのフォーマットに変換してインポートできるので、吉川英治などの作品は充実してきた(笑)。マイクロSDカードを入れて容量を大幅に増やせるのもありがたい。今、未読既読、そして日本語英語の両方を含めて私のリーダーには152冊の書籍が入っている。まさに本棚を持ち歩いているようなものだ。外出先でも待ち時間などがあれば読書したいので、持ち歩けないような大きな本(ノンフィクションは特にペーパーバックでも大きいものが多い)も気軽に読める。

家にある本でも少しずつ古本屋で処分し、何度も読みたいものだけ電子書籍に切り替えていこうかと思っている今日この頃である。とにかく本の虫で、特にミステリー作家で気に入った人がいると、その人の作品を片っ端から読んでしまうので、本がたまりやすいのだ。できるだけ、がさばらないマスマーケット版のペーパーバックにし、ハードカバーを買うことは皆無に近いが、それでもたまると場所を取る。30冊くらいのシリーズも少なくないので、電子書籍に切り替えて断捨離し、すっきりしたいのだ…。

そして電子書籍の大きなメリットは、上に書いたエラリー・クイーンの作品のようなケースだ。高評価なのに絶版になった本も、データならそれほどコストがかからないので、少しずつ電子書籍化が進んでいるのである。私がkoboのリーダーを使い始めた頃、エラリー・クイーンの作品はほとんど電子書籍市場に出ていなかったが、今ではかなりの作品が買えるようになった。

これは私のようなオバサンにとってはとても嬉しいことなのだ。10代、20代の頃に日本語で読んで好きだった本を原書で読みたい。こちらに来て26年、紙の書籍で買えるものはほとんど買って愛読したが、絶版になっていたものはどうしようもなかった。それが今入手できるようになる。ありがたいことだ。

koboに数年前リクエストしていたノンフィクションの本も今チェックしたら買えるようになっていたので早速購入した。比較的簡単にメールでリクエストできるのが嬉しいところだ。

今電子書籍化を待っているのがDavid Eddingsのベルガリアードとマロリオンだ。彼の作品はごく一部しか電子書籍化されていない。もう一つはアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズ。SF作家のアシモフだが、このシリーズは連作短編のミステリーだ。これも20歳前後に夢中になって読んだもので、もう一度読みたいのだがアメリカでは絶版。古本屋でも、米国アマゾンの中古書マーケットでもほとんど見かけない。

あとは日本の電子書籍がこちらから気軽に購入できるようになれば言うことないんだけどなあ…


 

読書レビュー:畠中恵の「まんまこと」

  • 2015.08.03 Monday
  • 21:48
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TVジャパンで放送され始めた「まんまこと」。一話目を観て気に入り、原作者が大好きな「しゃばけ」シリーズと同じ畠中恵さんだとわかったので、さっそく原作四巻を購入した。日本にいたときは外出のたびに必ず本屋に立ち寄り、色々な新刊本をチェックしていたものだが、こちらにいるとなかなかそういう機会もなく、一年に一度か二度、好きな作家のシリーズの新刊をチェックする、という感じだ。そのサーチの中でたまたま他の作家の作品が目についたりして世界がちょっと広がることもあるが、アメリカに住んでいて不便だなあ、寂しいなあ、と思う数少ないことの一つが、この、日本の本に出会うチャンスの少なさである。そんな中で出会った新シリーズ。さて、どんな感じだろう、とわくわくしながら読み始めた。
 
江戸の町名主、高橋家の跡取り息子、麻之助。十六歳まで真面目一方だったのに、突然お気楽な遊び人に変身してしまって六年たつ。親友で同じく町名主の跡取りで、女たらしの八木清十郎、そして子供のとき道場で出会って以来の幼馴染の同心見習い、吉五郎の二人とつるみながら、そんな麻之助が高橋家に持ち込まれるいろいろな相談事や揉め事を解決していくお話だ。
 
お江戸の町をゆったりと描く雰囲気、主人公がボンボンであることは、「しゃばけ」に似ているが、こちらの主人公は普通の人間で、彼を助ける友人たちも普通の人間。あくまで現実世界の物語である。(もっとも二巻の「こいしり」にはちょっと不思議なお話があるが、それはとりあえずおいておこう)
 
そして麻之助が今のようないい加減なお気楽者になったには、何か深い理由があるらしいが、これもこの一巻の途中で明らかになる。それに加えて突然許婚となったお寿ずの存在。一見のんきそうだが、内心は色々と揺れ動く麻之助なのである。
 
麻之助のところへ持ち込まれる厄介ごとの多くは、本来このような訴えを受け付けるはずの町奉行が相手にしないような出来事ばかりである。それほど大きな額の金銭がからむわけでもなし、一見犯罪がらみでもない(そして、多くの場合、結末も犯罪とは無縁だ)。しかし当事者にとってはのっぴきならないお話ばかり。未婚の娘のおなかの子の父親探し、家出して何も言わない娘の親探し、珍しそうな万年青の芽の鉢の持ち主探しなどなど…。結局は麻之助も足を使って歩き回る。町名主である高橋家の自宅に陣取ってふんぞり返っているわけにもいかず、江戸の町を歩いて色々な人々と話さなければならない。職人、商人、町娘…。
 
しゃばけの若だんな、一太郎は身体が弱く、うるさい兄やたちに囲まれているからなかなか外出も思うようにいかないが、二十二歳の遊び盛り(笑)の麻之助は自由なものだ。そして江戸っ子の名に恥じず、けっこう喧嘩っ早いらしい。畠中恵さんといえば「アイスクリン強し」という作品もあったな、と思いだす。今回の主人公と彼を取り巻く人間模様は、ちょっとその作品を思い出させた。
 
とりあえず一巻である「まんまこと」は登場するレギュラーたちの姿をくっきりと浮かび上がらせ、麻之助が生きる世界を見事に紹介してくれた、という感じ。これから読み進むのが楽しみだ。

読書レビュー:畠中恵作・しゃばけシリーズ第11作「ひなこまち」

  • 2015.08.01 Saturday
  • 21:38
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ひさしぶりの更新となってしまった。半年ほど本業で非常に忙しい日々が続いてしまい、日本への旅行や新しいクラスの担当など、ブログに書きたくなるようなことは色々あったものの、なかなか書けず。

さて、一年に1−2回注文する和書。今回は6冊届いた。

まず一冊目は大好きなしゃばけシリーズの第11作目。
若だんなのところに現れた謎の木札には「お願いです。助けて下さい」と書かれてあり、しかも五月十日までに、と期限がある。誰が書いたのか、どうやって若だんなのところに届いたのかも分からない。しかしその後、若だんなのところへは不思議な相談事がもちかけられるようになる。一方、お江戸ではある人形屋が雛人形のモデルにするため、べっぴんの「雛小町」を町娘の中から選び、その娘はその雛人形を納める大名家にお目見えするという話でもちきりだ。

そして持ち込まれる相談事の数々…。
1.ろくでなしの船箪笥
  若だんなの友達、小乃屋の七之助と冬吉が持ち込んだ相談事は、彼らが上方の本家の祖父が亡くなって譲り受けた船箪笥のことだった。本家の伯父に、譲る前に中をあらためさせろ、と言われたものの、この箪笥はなぜか誰も開けることができない。預かってくれている叶屋(かのうや)もいい顔をせず、七之助は困っていたのだ。若だんなと妖(あやかし)はさっそくその船箪笥を調べ始める…。

2.ばくのふだ
  怪談噺を得意とする噺家、本島亭場久(ほんとうていばきゅう)の芸を聞きにある商家が自宅で催す寄席に出かけた若だんなと妖たち。しかし、そこで場久の噺に突然激高し、刀を振り回す侍が現れた。それ以来、江戸のあちこちで不思議なことが起こり始め、長崎屋でも普段に増して奇妙なことが起こる。どうやら夢を食べる獏が上野広徳寺の高僧、寛朝が悪夢除けに書く獏の絵から抜け出してしまったらしい。獏を捕まえてみると意外なことが…。

3.ひなこまち
  雛小町を選ぶための東西番付が作られることになり、われこそは、と張り切る娘たちを相手に古着屋は大繁盛。長崎屋の仁吉と屏風のぞきは古着行商の娘、於しなと知り合う。最近頻出する古着泥棒を一緒に追い、彼らは上方屋と名乗る怪しい行商を見つけるのだが…。

4.さくらがり
  上野の広徳寺へお花見にやってきた若だんなと長崎屋の妖一同。妖たちものびのびできるように、と高僧の寛朝が気を利かせて他の花見参詣客とは別のお堂に案内してくれた。そこへ次々と人々が現れる。まずは東の河童の首領、禰々子。若だんなが以前助けた西の河童からお礼をことづかってきたのだ。感謝の品に不思議な薬の数々を受け取る若だんな。続いて安居(あんご)という侍が相談事をもちかけてくる。妻の雪柳の気持ちがわからぬという。その後河童がくれた薬の一つ、ほれ薬が盗まれて、広徳寺境内が大変なことに…。

5.河童の秘薬
      雛小町が選ばれるのが五月十日だと知った若だんなは、かねて依頼されていた雛小町選びを引き受けることにした。謎の木札の日付と同じだったからだ。そして前章で出会った侍、安居の妻、雪柳が長崎屋を訪ねてくる。雪柳が長崎屋の前で見つけた迷子の親を捜しに若だんなと兄やたちは雪柳や子供と出かけるのだが、どうもあたりの様子がおかしい…。

といったお話。

「ばくのふだ」は、軽妙な出だしとは裏腹に、怪談噺そのものの恐ろしい結末。一瞬宮部みゆきさんの本だっけ?と思ってしまったくらいだ(笑)。「さくらがり」はでだしの出かける準備のところを読むだけでおなかがすいてくる(笑)。玉子焼きを作りたくなる。

そして全編を通してのテーマ「雛小町」と木札の謎がきれいにつながっていく最後の気持ちよさ。他人の悩みごとを解決しながら、それをいつも自分と重ね、思いをめぐらす若だんなのけなげさ。そしてあいも変わらず若だんな命の佐助と仁吉の横暴とさえ言える忠義っぷりもほほえましい。

最後は明るく希望に満ちた大団円。若だんなが複雑な思いを浮かべてのほろ苦い、あるいは切ないエンディングになる巻も少なくないので、この明るい終わり方はとても心地よい。

今回の解説は柳家喬太郎。落語そのままの語り口でこれもとても楽しい。

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