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今日の晩ご飯
やっと春らしくなった週末。夫の職場の知人に招かれて夕食をご自宅でご馳走になった。イラク人のご主人と、ヨルダン育ちのパレスチナ人の奥さんの若いカップルだ。小学生の子供が三人いる。二人ともヨルダンでバイオエンジニアの仕事をしていたが、政情不安定な中近東を離れ、アメリカに移民してきた。奥さんは日系の肥料を扱う大企業で働いていたそうで、家にはその時にもらったらしい日本の飾りが幾つかあった。
お二人とも敬虔なイスラム教徒である。私は中近東の料理は食べたことがあるが、イスラム教徒の家にお邪魔するのは初めてだった。奥さんはヒジャブ(頭をすっぽり覆う布)を身に着けている。手と顔以外の肌を見せないのがイスラム教徒の女性のたしなみだ。近代化されたトルコなどでは、それを着用しない女性も増えてきているし、フランスではヒジャブの着用が禁止されるなど、風当たりが強いところも少なくない。しかし、奥さんは誇りを持って着用していた。三人のお子さんの末っ子は元気なとてもかわいい女の子だったが、彼女も年頃になればヒジャブを着けるのだそうだ。
この日は私たち夫婦のほかにもアメリカ人夫婦が一組、同じ職場のブラジル人の若い女性が招かれており、7人でのにぎやかな食事となった。朝から料理をしていたという奥さんが誇らしげに食卓に大きな鍋を持ってきて中身を大皿にあける。どれも美味しい料理でたっぷり堪能したが、料理名を聞くのを忘れたのが悔やまれる。
一つ目のメインディッシュはこちら。鍋にぎっしりと詰まったものをそのままお皿に逆さにしてあけるとこんな風になった。玉ねぎ(破らないようにして一層ずつきれいに抜いていくのだそうだ。根気のいる作業)、ナス、ジャガイモ、ズッキーニなどの野菜にひき肉や米、野菜を詰めてある。それをセロリを底に敷いた鍋にぎっしりと種類別の層になるようきれいに並べて詰め込む。そしてそれを長時間かけてじっくり蒸し焼きにするのだそうだ。それぞれの野菜によって食感が違うので、中身は同じだが色々な味が楽しめる。辛くはないが色々なスパイスが効いていて、複雑だがしっかりとなじんだ、そしてとても優しい味だった。
二つ目のメインディッシュは米、羊肉、ジャガイモ、玉ねぎなどの、日本風に言えば炊き込みご飯、西洋風に言えばピラフのような料理。これがまた美味しかった。ラムは骨付きをぶつ切りにして入れているのだが、柔らかくて骨からホロホロと外れる。ジャガイモは香ばしくねっとりとしていて、さらさらした長粒米のサフランライスのような味とこれまた実によく合う。おもわずおかわりしてしまった。
鳥のモモ肉のケバブという感じ。これまたスパイスが色々効いていて、ほのかに辛いが旨味も強い。ヨーグルトソースを載せて食べるとヨーグルトの酸味とスパイスが絶妙。
フムス(Hummus)。最近は日本でも人気が出ているようだが、ヒヨコマメにオリーブオイルやニンニク、練り胡麻などを入れてペースト状にしたものだ。これをピタブレッドやピタチップスなどにつけて食べる。ヘルシーなスナックとして人気が高い。市販で色々出ているので、どこでも買えるが、これはちゃんと奥さんの手作り。美味しかった。
この他、初めて見てびっくりしたのが、食前にコーヒーテーブルに出ていた
緑色の小さな果実。リンク先の用に緑色で小さく、ちょっと産毛が生えている。これは何ですか?と奥さんに聞くと、
「これはアーモンドよ。こうやってちょっと塩をつけて食べるの」
と、そばに添えてあった塩を盛った小皿にアーモンドの先をちょっとつけて、カリッとかじった。
真似をしてかじってみる。表皮がかなり分厚く、パリッとした食感がある。中の種(つまりやがて熟して、私たちが知っているあのアーモンドになる部分)は小さく、柔らかくて、汁がたっぷり詰まっている。
写真を撮らなかったので、どこかいいウェブサイトはないかな?と探したら、
イスラエルのテル・アビブにあるヴィーガンカフェのブログに見事な写真があったのでこちらをご紹介しておく。なるほど、スライスしてサラダにしたりパスタのトッピングにしたりもできるのか。ほんのり酸味があり、とても爽やかな味で食感と合わせてついつい手が伸びてしまう。この辺りでは、アラブ食料品店で買えるそうだ。今が旬らしい。いかにも春の味覚、という感じだった。
この他にも、揚げたピタチップスや野菜サラダもあり、楽しい夕食だった。食事中にご主人がどんどん大皿の料理をみんなの皿に取り分けてくる(笑)。こういうおもてなしは昔の日本みたいでちょっと懐かしく嬉しい。
食後に皆で色々な話。イスラム教の習慣の話、日本の習慣の話、ブラジルの人種問題、教育問題など、話題は尽きず、色々と勉強にもなった夜だった。
現在は教育方面で働きながら、夫婦揃って専門分野であるバイオエンジニアリングの修士課程習得の勉強中。いずれは本業のバイオエンジニアリングの仕事に就きたいという目標に向って努力しておられるのだ。
アメリカはやはり今でも移民の国。それをよしとしない人々が少なくないのもまた事実ではあるが、今でも世界中から人々が移民してくる。子供たちのため、戦火にまみれる故郷や経済的に行き場のない故郷を後にして来るこういった若い家族は少なくない。夫の職場である町は中近東や東南アジアからの移民が非常に多く、そういう地域の公立学校ではこういった人々の子供たちをスムーズにアメリカでの生活になじませるためのサポートをするカリキュラムが必須となっている。そのため、この夫婦は現在、そのサポートをするアシスタントの仕事をしているのだ。中近東からの子供は多く、バイリンガルである彼らのようなアシスタントの存在は欠かせない。ちなみに、イラク人であるご主人と、ヨルダン育ちである奥さんのアラビア語は微妙な違いがあり、ご主人は「彼女には『あなたのアラビア語は訛ってる』とよくからかわれるんですよ」と笑っていた。
世の中には色々な文化圏があり、宗教があり、国がある。ニュースだけ読んでいるとつい見下したり嫌いになってしまうこともある。こういう個人レベルでの交流があるというのはありがたいことだ。その国の人を一人二人知っているだけで、親近感はぐっと増すし、そういう人と話すことで、ニュースからは知りえない理解を深めることもできる。アメリカにいてありがたい、と思うのはそういう機会が多いことだ。
草の根国際交流という言葉があるが、そういう活動をバカにしてはいけない。個人レベルでの異文化交流はその人の世界観の広がりにつながり、その輪が広がることはいずれ、国レベル、政府レベルの交流につながっていく。少しでもチャンスがあれば、そういう人と話してみることが大事なのだ。
自分もまた、アメリカに住む日本人としてその交流を担うべき人間なのだろう、と自覚を新たにした夜だった。ご馳走様でした。