ポルトガルのスープ、Caldo Verdeを作ってみた

  • 2013.10.25 Friday
  • 11:42
JUGEMテーマ:アメリカ生活
JUGEMテーマ:今日の晩ご飯
 
私が教えている大学があるエリアはマサチューセッツ州の南部で、この辺りはポルトガル系の人々がとても多い。学生もポルトガル系の苗字が圧倒的に多いのだ。そのため、食文化もポルトガルのものが色濃く残っているようだ。

今は自分でお弁当を持参するようになったので、すっかり学食の食べ物を買わなくなったが、以前よく買っていたのが曜日ごとに変わるスープ。以前売っていたのがこのCaldo Verdeだった。野菜とチョリゾがたっぷり入った具沢山のスープで、食べると身体がホカホカした。

前から作ってみたいなあ、と思っていたのだが、ちょうど購読しているCook's Illustratedという料理雑誌の11月号が来て、その中にレシピがあったので作ってみることにした。(レシピはCook's Illustratedのウェブサイトにも出ているが、見るには会員登録が必要)。チョリソはどこでも売っているわけではないが、Whole Foodsに売っていたのを見つけた。

チョリソを角切りにして炒める。いったん取り出してみじん切りの玉ねぎとニンニク、乾燥したチリフレークと塩を入れてよく炒め、そこに角切りのジャガイモを入れてチキンストックと水を半々の割合で注ぎいれ、ジャガイモが柔らかく煮えるまで煮込む。

ここでスープと実の一部を取り出しておく。そこへ缶詰のキドニービーン(これはレシピにはないが、私が好きだった大学のカフェテリアのスープに入っていて美味しかったので)と、この日のファーマーズマーケットで売っていたクランベリービーンズの茹でたの、そしてケール(コラードグリーンでもOK。私はBaby Kaleという若いケールを入れた)を入れて10分煮込み、その後チョリソを入れてさらに10分煮る。

先ほど取り出しておいたスープと実の一部にオリーブオイルを加えてミキサーやブレンダーでペースト状にしてスープにもどす。基本はクリアーなスープだが、これを加えることでちょっととろみがつくのだ。最後に白ワインビネガーを加えて塩コショウで味付けして出来上がり。

それほど時間もかからないわりに、コクがあって、でもさっぱりしていて、野菜たっぷりでチョリソの辛味もピリリときいた、それはおいしいスープができあがる。これに美味しいパンとグリーンサラダを添えれば、それだけで立派な食事になる。冷蔵庫に入れれば二日ほどは保存できるので、忙しい日の前日に作りおきしておくことも可能だ。

冬の寒い日に体がしっかり温まるスープ。こういうレシピはたくさん持っておきたい(笑)。厳しいニューイングランドの冬はもうすぐそこまで来ている。






 

テレビドラマとクロナッツ

  • 2013.10.19 Saturday
  • 11:36
JUGEMテーマ:アメリカ生活

段々秋らしい気候になってきて、紅葉した木々も見かけるようになった。今週と来週は大学で中間試験をやっていて、学生たちもちょっと緊張気味である。


ニューヨークで話題になった新しいタイプのペイストリー、クロナッツ。クロワッサンとドーナツを足して二で割ったようなオヤツだが、これが最近ボストンでも売られるようになってきた。わが町では、個人経営のベーカリーと、Whole Foodsで売られるようになった。今日試してみようと思って朝でかけてきたら、ベーカリーの方は職人さんがお休みで買えず、Whole Foodsで買って来た。見た目はドーナツっぽいが、ドーナツより生地がサックリしている。かといってクロワッサンほどポロポロでもなく、ほどよい粘りがあって食べやすい。これは真ん中に少しだけカスタードクリームも入っていて、なかなか美味しかった。焼きたての方が圧倒的に美味しいようだ。


さて、先週後半から週末にかけてけっこうひどい風邪をひいてダウンしていたのだが、週明けからまた体調もほぼ普通に戻っている。ダウンしているとき、さすがに四日間眠り続けるわけにもいかなかったので、昼間はテレビを観たりしてソファで横になって過ごした。テレビだと眠くなってもそのまま寝られるし、本より楽だったりする。その時の時間つぶしで観始めたシリーズが、全米三大テレビネットワークの一つ、ABCのOnce Upon A Time(ワンス・アポン・ア・タイム)というドラマである。現在、アメリカではシーズン3を放送中だが、日本で、NHKのBSがシーズン1を9月から放送し始めたとのことで、テレビジャパンで言及されていたので、ちょっと気になった。

Netflixでシーズン1と2が観られるので、ちょっとどんな感じか観てみよう、と思ったらこれが面白くて(笑)、風邪で寝ている間の昼間、四日間ほどかけてシーズン1の22話を全部観てしまったのである。最近は、ケーブルの有料プレミアムチャンネル(HBOやShowtimeなど)のドラマばかり観ていたので、地上波のテレビ局のドラマをしっかり観るのは実に久しぶりである。West Wing(ザ・ホワイトハウス)以来じゃないだろうか。

お話は、メイン州のストーリーブルックという架空の町が舞台である。ボストンに住む28歳のエマ・スワンは赤ん坊の時ハイウェイ沿いに捨てられていて、その後一人で育ってきた。今はBounty Hunterとして働いているが、その彼女の前に、10年前に刑務所で産んで養子に出した息子、ヘンリーが現れる。ヘンリーの住む町、ストーリーブルックにやってきたエマはそこで色々な人々に出会う。ヘンリーは、この町の住民はすべて、御伽噺の登場人物で、自分の養母であり、町長のレジーナ(御伽噺の世界では、白雪姫の継母)の魔法によってこの世へ送られ、記憶を失っているのだと言う。そして、その呪いを解くことができるのが、白雪姫とプリンス・チャーミングの間に生まれ、呪いがかけられる直前に、赤子として魔法の箪笥でこの世に送られたエマ本人なのだ、と。

エマはその話を信じることは出来なかったが、ヘンリーの身を案じてストーリーブルックにとどまることにする。しかし、レジーナはエマを追い出そうと画策。そしてドラマは、呪いがかけられる前の御伽噺の世界(Enchanted Forest - 魔法の森)の物語と、現在のストーリーブルックの物語を並行して語っていくので、視聴者はストーリーブルックの住民がそれぞれ御伽噺の世界では誰なのか、を知ることが出来る。御伽噺の世界もまた、グリム童話やペロー童話など色々なものから素材が取られているが、そのプロットや世界設定には、このドラマ独特の解釈やアレンジが加えられており、どれも一筋縄ではいかない二次創作となっていて、それがまたこのドラマの面白さである。

ここから先はネタバレになるので知りたくない人は要注意。
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読書レビュー:神から授かった使命に生きた男、新島襄の手紙とその人生

  • 2013.10.13 Sunday
  • 11:15
JUGEMテーマ:読書

NHKの大河ドラマ「八重の桜」で主人公の夫として存在感を放つ新島襄。同志社大学の創立者としてあまりにも有名な人物であるが、それと同時に、この人はボストンにゆかりの深い人でもある。もう10年近く前になるが、同志社から偉い方々がボストンを訪問し、新島襄の足跡をたどるツアーを行った時、ガイドとしてご一緒する機会を得た。ガイドと言っても、この場合はツアー参加者である同志社関係者の方々の方が新島襄のボストンエリアでの足跡について詳しく、私の仕事はバスでの移動などに支障がないようにするお手伝い程度で、逆に色々と教えていただいた仕事だった。その時から、もうちょっと詳しく知りたいなあという気持ちがあったのだが、今回大河ドラマで彼が再び脚光を浴びるにあたり、もうちょっと調べてみよう、と思って検索して見つけたのがこの本である。

21歳の新島七五三太(にいじましめた)が密航して向かった先はボストンだった。そこで彼をまるでわが子のように迎え入れたのが、ボストン市民で、彼を運んだ船の持ち主であるアルフェウス・ハーディー夫妻である。この夫妻の援助を得て新島襄はボストン近郊のアンドーバーにあるフィリップス・アカデミー(今でも続く名門私立寄宿舎学校で、ジョージ・W・ブッシュ大統領もここの卒業生)や、州の中部にある、これも名門のアマースト大学で学ぶ。休暇中には、ハーディー夫妻や、彼をボストンに運んでくれた船のテイラー船長などと過ごすなど、親交を深めた。その後牧師の資格を得て、宣教師として日本に帰国し、同志社を設立するのである。

この本は、ほとんどが彼が生前に書いた手紙と日記で構成されている。主に上記の親代わりとなったハーディー夫妻にあてて書かれたものだ。既にパブリック・ドメインとなっている書籍なので、電子書籍ならGoogle Booksをはじめとする幾つかのウェブサイトで無料でダウンロードすることが出来る。

この書簡集でもっとも印象に残ったことは二つある。一つは彼がハーディー夫妻に対して、実の子供のように表現するひたむきな愛情と彼らに寄せる全幅の信頼。もう一つは、彼の最初の手紙から始まる、熱烈なキリスト教への信仰心である。すべての手紙の一文一文に、彼の強い信仰心がこめられており、その思いの強さに圧倒される。

対象が何であれ、ここまで強い意志を持って何事かに臨む人は、必ず何事かを成し遂げることができるのだろう。彼が望んだ「キリスト教立国」の日本こそ実現はしなかったが、彼が残した同志社大学は今に至っても、

明治は傑物が続出した時代で、彼らの年齢を見るとその若さに驚かされるが、この人もまた、稀なる人物であった、ということがこの本を読むと実感できる。不幸にして早世したが、彼が長生きしたら日本はどうなっていただろうか、と思いをめぐらせずにはいられない。

今まで興味がそれほど無かった明治という時代に興味を持てたのも、新島襄という人物のおかげである。

読書レビュー:食と人を大事にする暖かい生き方「東京の空の下オムレツのにおいは流れる」

  • 2013.10.12 Saturday
  • 09:54
JUGEMテーマ:読書

私が石井好子さんの本を初めて読んだのは7歳の時だ。既に救いようのない活字中毒になっていた私は、両親や三歳上の姉の本棚にもどんどん手を伸ばしていた。母の本棚に、彼女の「ふたりの恋人」があった。前半は料理エッセイ、後半は彼女がフランスでシャンソン歌手として、また帰国後にプロデューサーとして招聘し交流したフランスの歌手たちにまつわる思い出である。

気取らず、しかしその豊富な体験に裏打ちされた食に関する知識、好奇心は見事なものだった。本の最初にはパンの話があり、石井さんも幼少時は体が弱く、よくおなかを壊し、食が細かった、というのを読んで親近感を覚えたものだ。当時の私も食が細く、偏食がひどくてよく体調を崩していたものだった。しかし、この人の本を読んで初めて、食というものは面白いものだ、というイメージを持ったようだ。その後私は母の料理本を次々と読むようになった(笑)。自分が料理を楽しむようになったのはずっとずっと後のことだったけれど…。

今でもとても彼女の域には及ばないけれど、最初に私を今のような食いしん坊、美味しいもの好きにさせたきっかけがこの人の本だったのだ。

さて、この本の中でとりわけ胸を打ったのは、石井さんが立て続けにご主人とお父上を亡くされたときのことだ。好みがご自分と違うご主人のために作ってきた料理を作る気がしなかった、というくだり。泣きながらも食べられる、というご自分の話。初めに読んだ「ふたりの恋人」でも、石井さんが歎き悲しむお友達のためにただただスープを作った、という章があったのを思い出す。「悲しんでいる人でもスープなら食べられる。スープとはありがたい食べ物である」と言ったような文だった。

石井さんご自身は87歳で三年前に亡くなられたが、最後まで歌手として、エッセイ作家として活躍しておられた。その元気の素は、やはりこの食に対する喜びと、そして彼女のエッセイの端々からわかる、周囲の人々を大切にする思いやり、面倒見の良さだったのかもしれない。形にこだわらず、ただただお客の喜ぶ顔が見たくて彼女が作るご飯のお話はどれを読んでも心がほっこりと暖かくなり、自分も同じものを作ってみたくなる。彼女のように私も野菜のポタージュをよく作るし、この本にも「ふたりの恋人」にも登場したナスの「貧乏人のキャビア」も時々作る。

そして読めば読むほどこの人は凄い人だった、と思うのだ。今日本でシャンソンが見事に根付いているのも、この人のおかげだし、彼女が戦後間もないあの頃に成し遂げたことのすごさ。巴里で実際にシャンソン歌手として活動した、ということのすごさ。ご本人はさらっと書いておられるが、本当にすごいことだ。たとえばジャズ。今でこそ、日本人で、米国でも活躍しているジャズミュージシャンは多数いるし、他のジャンルもまた然りだが、ジャズやシャンソンなど、その国の国民性、カルチャーが色濃く出ている分野の芸術を、戦後間もないあの時代に日本人の彼女がマスターし、現地のプロと肩を並べていた、ということが本当に凄いことだと思うのである。

だから、石井好子さんは私がもっとも尊敬する女性の一人である。

読書レビュー:ミリネタ、ラノベ、苦手なはずなのに面白すぎる「図書館戦争」

  • 2013.10.06 Sunday
  • 20:17
JUGEMテーマ:読書

日本から届いた本、三冊目は有川浩の「図書館戦争」。出入りの読書掲示板で以前話題になって以来、ひそかに気になっていた本だ。Wikipediaで内容設定のユニークさにちょっと心を惹かれた。

ただし、私は基本的にいわゆるラノベが苦手なのである。ラブコメも基本的に映画でも小説でも苦手である。そんな私がこの本を楽しめるのか?確信はなかったし、読書掲示板でも私の好みを知るメンバーには「ミル姐さんがこの本を好きかどうか…」と危ぶまれたのである(笑)。

この作品がラノベである、というのは次の数点からもわかる。

キャラクターが青春真っ只中の年齢である
カバーやイラストが漫画・アニメ的
会話も漫画風であり、語りの文はとにかくキャラクターの心理描写がこまか〜〜く書かれている。大人の小説ではここまで細かく書かない…と思う。

しかしご心配ご無用!実に面白かった。確かにラノベらしさは満載ではあったけれど、とにかくストーリーと世界設定が面白かった。自分的に面白ければ読めるんである(笑)。

このシリーズの大まかな設定(ネタバレはほとんどありません)はこちらをごらんください。

主人公の女の子が男勝りなのも私が抵抗なく読めた一因かもしれない。とにかく、図書館が言論の自由を守るために軍隊を擁して戦うようになっているという設定は非常に面白かった。特に昨今の日本の政治情勢を見ていると、あながちまったく関係ない世界の話でもなくなってきているではないか。

作者がでかけた図書館で「図書館の自由に関する宣言」を見かけて、そこからこの作品が生まれたとのことだが、世界観の構築はなかなかのものだ。今のところ大きな悪役は登場しておらず(あくまで組織としてしか登場していない)、ラノベで私が苦手とする要素の一つ、「悪役を陳腐に描きすぎてリアリティがない」という点がどうなるのか、という意味ではまだ未知数である。特定の悪役が今後登場するのかどうかもわからないけれど。

主人公の恋の行方がどうなるかは、ラノベだからおそらくうまくいくんだろうと推測しているが、この1巻における恋の様子はなかなか面白かった。ちなみに、ああ、ラノベらしいキャラだなあ、と微笑ましく思ったのは教官の小牧と上司の玄田の二人であるが、これまた苦手反応が出ず、楽しんで読むことが出来た。

たまにこういう小説も悪くない。次回日本の本を注文する時は、続きを購入するつもりだ。






読書レビュー:原作版「魔女の宅急便」

  • 2013.10.05 Saturday
  • 16:28
JUGEMテーマ:読書

ジブリのアニメで有名な「魔女の宅急便」。ジブリアニメの中でも好きな作品の一つだが、原作は日本の児童文学だと言うことさえ、つい最近まで知らなかった。知ったらやはり読みたくなった(笑)。何巻も続いているようだが、とりあえず一冊取り寄せてみよう、と購入したこの第1巻。こういうときは、下手にアニメ版とタイアップしていない方がいい。先入観をいったん消して読みたいのだ。

文庫本とは言え、ちょっと文字も大きめで行間もたっぷりしていて読みやすい。「こより」さんというイラストレーターの小さな挿絵(各章末で、ネコのジジがいろんなポーズをとる姿が小さなイラストになっている)もステキだし、中表紙の、ロングヘアーのキキも13歳の女の子らしくてとてもいい。アニメでは短い髪のキキだけど、こちらのキキは本当にいそうな感じがする。

アニメではトンボという少年の話や画家の若い女性とのふれあいが主になっているけれど、原作にはもっともっと、キキが町のいろんな人と触れ合うエピソードが盛り込まれていて、それぞれのお話もステキな短編のようだ。キキが大きな町で、最初は人々の無関心に傷つくものの、だんだん自分の居場所をみつけ、町の人に愛されるようになっていくようすも読んでいて心があたたまる。

アニメと比べる気持ちは序盤ですぐなくなってしまい、まったく違う世界の違うキキの話として楽しむことができた。アニメの方ももちろん大好きだけど、これはこれでいい。続きも読むことになりそうだ。

腹巻を編むお母さんを持つ船長さんのお話も楽しかったし、お正月の時計台の話も、若い町長さんの顔が目に見えるような楽しさがあった。最後の里帰りの章では、キキもジジもそれぞれサプライズがあって、そこを読んだら涙が出てきてしまった。お父さんもお母さんもあったくてステキだし、彼女を取り巻く人々もあたたかい。

そしてキキは落ち込んだり元気になったりしながら、ジジと一緒に頑張って毎日を生きていく。考えてみれば、児童文学ならではの設定で、魔女は13歳で一人立ちしなければいけない、ということなのだが、リアルで考えれば13歳は中学1-2年生。本来ならとても一人で生きていける年齢じゃないのだけど、そんな子供が一生懸命明るくみんなに愛されながら生きていくお話だから、かわいくて、楽しくて、ホロッとさせられるのだろうか。彼女のこれからが、まるで親戚のオバサンが姪っ子を見守るような気持ちで楽しみになる。

次回本を注文する時は、このシリーズの続きを2-3冊入れることになりそうだ。

読書レビュー:井上靖の「後白河院」

  • 2013.10.04 Friday
  • 08:57
JUGEMテーマ:読書

日本のhonto.jpに八月注文した本が数冊届いた。船便で送ってもらっているので少し時間はかかるが、送料がかなり安いのでありがたい。一年に1-2回、ここからまとめて数冊の本を買うようになった。

最初に読んだのがこの本。

まずは、この作品の感想の前に私の井上靖への思いいれを書く。ちょっと長くなるので、それに興味がない、本の感想だけ読みたい、という方は、下の「続きを読む」をクリックしていただければスキップできます(笑)。

井上靖は十代のときに大好きだった作家である。中学に入ってすぐの頃、何かのきっかけで母が旺文社文庫の百冊の中から選んで何冊か買ってくれた覚えがあるが、その中に入っていたのが彼の「あすなろ物語」だった。

今までそういうタイプの小説を読んだことがなかった(どちらかと言えば児童文学のファンタジー系や、19世紀後半の英米児童文学が好きだったので)私にとって、この「あすなろ物語」は非常にインパクトが強い作品だった。自分の年齢に近い(ちょっと年上だが)主人公。そして、作品の舞台がどうやら自分の住んでいる辺りらしい、とわかったことも興味を引いた。

当時は当然インターネットなどない時代だから、そんなに簡単に井上靖の略歴を調べられるわけでもなかったが、やがて、作品に登場する旧制中学はどうやら地元の県立沼津東高等学校らしい、ということを知った。当時従兄弟が通っていて、色々面白い話を聴いていた高校である。

その頃から私はこの高校へ行こう、と決めてしまった(笑)。従兄弟の話のおかげか、井上靖の影響か…多分両方だったのだろう。

その後「しろばんば」を読み、さらに旧制中学時代の様子に心をひかれた。そして彼の他の作品も、中学の図書館から借りて読むようになった。図書館には立派なハードカバーの「井上靖全集」があったのだ。

そして読んだのが以下の作品。
「淀どの日記」
「楊貴妃伝」
「本覚坊遺文」
「蒼き狼」
「敦煌」
「天平の甍」

これ以外に何か読んだか、正直覚えていないが、この六つの長編はよく覚えている。確か、他にも中央、西アジアものの短編は読んだはずだ。なぜか敬遠して未だ未読だった作品は主に現代小説だが、「おろしや国酔夢譚」も「楊貴妃伝」と同じ一冊に入っていて、楊貴妃伝は何度も借り出して読んだのに、一度も読まなかった。何か自分なりに興味が限定されていたのだろう。

この人の小説にはどこか哀しみがあり、透明な美しさがあり、登場する女性はいつも冷徹で、謎を秘めていて、でもどこかにほとばしるような熱さがあり、不思議な存在感があった。10代の私がなぜ彼の作品に惹かれたのか、よくわからないけれど、本当に不思議な魅力があったものだ。

その後、希望通り県立沼津東高校の入試となったとき、面接で「好きな作家は?」と聞かれて「井上靖です」と答えたのも、入試に有利だと思ったからではなく、当時本当に一番好きな作家だったからなのだが、先生方の喜びようはあからさまだった(笑)。「この高校の先輩ですよ」と嬉しそうに答えが返ってきたのを覚えている。その後入学してから、この学校で、井上靖という偉大な卒業生が、いかにこの学校の誇りとなっているかを初めて知り、その存在感の大きさに驚いたものだった。先生方も何かと言えば「ここは井上靖の母校」と口癖のように言っていたものだ。

他にも詩人の大岡信氏やソニーの社長となった大賀氏など、それなりにそうそうたる卒業生がいるのだが、やはり、その頂点で、井上靖という大作家は燦然たる輝きを放つ存在だったのだ。私が卒業した数年後に、彼の碑が校内に建立されている。

大学に入ってからはアガサ・クリスティーなどの洋物、推理小説などを読むことが多くなり、純文学はほとんどと言っていいほど読まなくなったので、井上靖の作品を読むことも減った。たまに一番好きで文庫版を買った「淀どの日記」と「楊貴妃伝」を読み返す程度となったのだ。

この夏、日本食料品店の古本屋コーナーで彼の「孔子」を見つけたのが井上靖との再会だった。ふと興味がわいて買って読んでみたところ、その文体の美しさに眩暈がしそうになった(笑)。ああ、私はこの人の文体が好きだったんだ、だからあんな風にとりつかれたように彼の本ばかり読んでいたんだ、と三十年以上たって初めて理解できた次第である。とにかくこの人が書く日本語、特に敬語は美しい。だから、歴史小説ばかり読んだのだ、特に高貴な人やカリスマ性がある人を周囲の者が回想するように描いた小説や、高貴な女性を描いた小説が好きだったのだ、と。

そんなわけで、未読だったこの「後白河院」を読んでみようと思い立った次第である。以前はこの時代はあまり詳しくなかったので興味もなかったが、昨年の大河ドラマ「平清盛」のおかげで院政時代と源平の時代にかなり親しみがわき、歴史的な出来事も実感を持って理解できたので、今なら面白く読めそうだ、と思ってのことだ。

と、前置きが長くなったがここからやっと感想に入る。
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「あまちゃん」と「ごちそうさん」

  • 2013.10.02 Wednesday
  • 21:17
大人気の「あまちゃん」が先週で終わった。

私も毎日欠かさず観た。ボストンでの放送(テレビジャパンというNHKの番組が主体の有料チャンネル)では夜の9時45分が最初で、これは日本の一度目の放送からわずか2時間ほど遅れての放送。その後、翌朝の7時半と10時に二回再放送される。朝はニュースが特別延長されたりすると時間がずれることが多いので、夜の分を録画して、朝起きたらすぐ観るパターンが多かった。夜はいわゆるゴールデンタイムなので、夫とレッドソックスを観ていることが多いのだ(笑)。何も面白い番組がないときは、リアルタイムで観ることもあるが、日本語がわからない夫の前で観るのは何となく申し訳ない気がする。まあ、15分なので、時々はそうやって観ていて、夫も内容はわからないけれど、「あまちゃん」のオープニングテーマは大好きだった。

楽しくて、泣かされて、小ネタ満載で、テンポが良くて、大好きな俳優さんや女優さんがたくさん出ていて、音楽も良くて、明るい気持ちになれて、私も「あまちゃん」が大好きだった。

最終回でユイとアキが駆けて行くトンネル。地震のとき、涙声で携帯電話のむこうにいるアキに「もう行けない。アキちゃんが来てよ」とユイがつぶやいたあの場所を、二人は笑いながら、子猫のようにじゃれあいながらその向こうの光へ向かって駆け抜けていく。これよりいい終わり方は本当に考えられない。アキが何度か一人で走ったあの堤防を、(あ、いっそんと走った時もあったか)、最後はユイと二人で走る。笑顔で。

私には、もうそれだけで充分だった。

だから、私はスピンオフも、続編も要らない。あそこで終わりになるからこそ、「あまちゃん」は私の中で大事な大事な、大好きなドラマであり続ける。アキもユイも、袖が浜のやかましい海女さんたち(弥生さん、かつ枝さん、美寿々さん、安部ちゃん)も、観光協会の菅原さんや栗原ちゃんも、北鉄の大吉と吉田君も、ストーブさん、足立先生と奥さんも、勉さんとミズタクも、夏ばっばとじっちゃん、それに猫のカツエも、そして東京で頑張る春子、正宗、太巻、鈴鹿ひろ美、GMTのみんなも(甲斐さんも入れてあげないと可哀そうかな)、あのまま明るい明日へまっすぐに進んでいく終わりだったから、それでいい。このドラマに登場する人がみんな、自分の遠い親戚や知り合いみたいな気持ちになって、いつまでも元気でいてね、と願いながら実家を離れるような、そんな感じの最終回だった。連続テレビ小説の終わり方としてはとても良かったと思う。

最近は売れると続編やスピンオフが作られることが多いけど、多くは「そんなに引き伸ばさなくても良かったんじゃないの」と思うことの方が正直多い。

イギリスのドラマ、Downton Abbeyなどは私にとってはその一例だったりする。シーズン4が現在イギリスで放映中で、年明けにはこちらでも放送される。1と2は夢中になったが、3は正直ちょっとがっかりした。4も観るけれど、今までほどの期待感は正直、ない。

ハリポタは原作がしっかりしており、作者のローリングは最初から、7巻の最後をあの一文で結ぶつもりだった、と話している。最初から7巻の予定だったからこそ、あの物語は生きたものになった。だから、もう彼女はジェームスが若かった頃の話も、ハリーたちが7巻後どうなったかも書かないと思うし、書いて欲しくない。書いて欲しい、という人の気持ちはわからないでもないが、今の私にはそういう気持ちがない。テレビや映画も同じように思うことが多いのだ。

もちろん例外はあるわけで、映画「シュレック」のシリーズはどれも秀逸だったと思うけれど…。

というわけで、今週から始まった「ごちそうさん」も楽しんで観ている。「あまちゃん」とまったく違うのは当たり前。今のところ、好きな俳優さんは吉行和子さんと原田泰三さんくらいだけど、これからいろんな人が出てくるだろうし、美味しそうなものが毎回画面に登場するのも楽しみだ。ストーリーに入り込めるのはもうちょっと後になるかもしれないけれど、テレビジャパンを観られるようになって、今までNHK大阪が作ったもので苦手だったものはないので、これも楽しめると思う。それに、明治・大正・昭和の話って好きなのよね(笑)。

というわけでこれからも朝起きてDVRを開いて「ごちそうさん」を見ながら軽く体操する日々が続くのである。あまちゃんの最後の方は観ながら泣いてしまって体操を中断することが時々あったけど(笑)、「ごちそうさん」はしばらく大丈夫かな?

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