読書レビュー:ハリポタ作者の大人向け小説 "Casual Vacancy"
- 2013.01.15 Tuesday
- 10:46
評価:
J. K. Rowling Little, Brown and Company ¥ 2,960 (2012-09-27) |
12月に聴き終わったのだが、感想を書きそびれていたのであらためて。
ハリー・ポッターの作者、J.K.ローリングが昨年の秋に出した新作。今回は魔法もなく、現実のイギリスの社会の一部を切り取った大人向けの小説である。
タイトルのカジュアル・ベイカンシーとはイギリスで使われる政治用語で、議会の議席が任期半ばで空くことをいう。
物語の舞台はイギリスの田舎の小さな町、パグフォード。ヤーヴィルというやや大きな町に隣接している。この町にはザ・フィールズ(The Fields)と呼ばれる低所得者層の住宅地があり、パグフォードでは、このThe Fieldsを町から分離したいと考える市民も少なくない。
小さな町の評議会(日本でいう町議会と同じだが、議員数は日本より少ない)ではThe Fieldsを巡って意見が真っ二つに割れていた。議長はThe Fields反対派で、グルメショップを営むハワード・モリソン。息子のマイルズは弁護士である。ハワードの妻はゴシップ好きのシャーリー。マイルズの妻サマンサはハワード、シャーリーとうまくいっていないし、結婚生活にも倦怠を感じている。
対抗するThe Field支持派のリーダーはバリー・フェアブラザー。それに女医のパーミンダー・ジャワンダである。しかし彼らは少数派だった。
物語はバリーの急死から始まる。彼の死でパグフォードの評議会に空席ができたため、大人たちはその空席を巡って色々な駆け引きを始めるのである。
ハワードは息子のマイルズに空席を埋めさせるべく活動を開始する。パーミンダーはおなじくバリーと親しい友人だった地元の公立学校の教頭、コリンの立候補を支持。しかしコリンは昔から自分の中にあるある恐怖と戦っており、この立候補により、その恐怖がさらに高まることになる。そのコリンを何とか支えようとしつつも疲れているのがコリンの妻で、パグフォードの高校でカウンセラーをつとめるテッサである。
一方、コリンの息子、スチュワート(通称ファッツ)やその友人アンドリュー、The Fieldsの住人でヘロイン中毒の母と幼い弟と暮らすクリスタル、出来のいい姉と兄の下で劣等感に悩まされるパーミンダーの娘、サクヴィンダー、ロンドンからボーイフレンドのガーヴィン(マイルズの同僚弁護士)を追いかけてやってきたソーシャルワーカー、ケイの娘ガイアなど、パグフォードの高校の生徒たちの悩める日々が生々しく描かれる。
特にクリスタルとその母、テリーを通して描かれたイギリスの貧困層の現実は生々しかった。ドラッグ、世代を通して繰り返される暴力、性的虐待、抜け出せない悪循環と、その中にいる人間の無力感。
そして、最初は一見それぞれ無関係に見えたたくさんのストーリーラインが次第につながりを持ち始め、最後は太い一本の流れとなってある悲劇に向かって一直線につながっていく。
結論から言うと内容が重く、決して読んでいて楽しいとは思えない内容ではあったが、それでも読んで良かったし、非常に面白かった。
ここからはネタバレ感想になるので、未読の方はご注意ください。