昨夜遅く、臨時ニュースで報道され、今朝もテレビはこの話題でもちきりだ。ボストンの人間にとっては特に大きなニュースである。
日本のニュースではジェームス・バルジャーと本名で記されているが、アメリカ人にとっては彼のニックネーム、ホワイティ・バルジャーの方が馴染み深い。
FBIによる指名手配を受けていたジェームズ・バルジャーが昨夜カリフォルニアのサンタ・モニカで逮捕された。ボストンから逃亡して以来、16年が経過していた。
1929年生まれで、現在81歳。逮捕されたときは健康状態もかなり悪かったという。ボストンの貧しいアイルランド系の
家に生まれ、初逮捕は14歳のとき。その後も犯罪のキャリアを重ね、殺人、資金洗浄、恐喝、麻薬取引ありとあらゆる犯罪を犯した。FBIの取り締まりなど
により、ボストンのマフィアたちが淘汰されていく中、彼は次第に大きな力を握り、ボストンを牛耳るようになる。
1994年、彼を告発する証人が現れ、FBIは彼の逮捕に踏み切ろうとした。しかし、FBIの捜査官の一人ジョン・コノリーはギャングに金で買わ
れており、コノリーがバルジャーに警告して、バルジャーはボストンから逃亡。以来昨日まで彼はFBIの目をかいくぐって16年間逃げ延びてきたというわけだ。
ジョン・コノリーはこの後逮捕され、バルジャーがからむ殺人事件への関与、汚職などで計50年の実刑判決を受け、現在服役中である。
ここまでは映画「Departed」もかくや、という内容で、ふむふむ、そんなこともあるのねん、と思われるだろうが、すごいのはここからである。
彼の弟、ウィリアム・バルジャーは兄とは対照的に学校での成績が良く、まっとうな人生を歩む。まっとうどころか、こちらはどんどんと出世し、なんと、マサチューセッツ州議会上院議会の議長をつとめるほどの大物政治家にまでなったのである!
この間、彼の兄が有名なギャングであることは皆周知の事実である。ウィリアム自身もそれをことさらに隠したわけではない。
ええと、考えてみてください。全国を牛耳る暴力団の組長の弟が、たとえば東京都議会、あるいは大阪府議会の議長をつとめる政治家である、という感じなのだ。
連帯責任という言葉が重みを持つ日本では考えられないことである・・・。
そりゃまあ、ウィリアム自身は真面目に生きてきたので、兄のことは彼にはどうしようもなかったんだろう。という考え方もできるが、この話にもまだまだ先がある(笑)。
ウィリアムは議長(そして議員職)引退後、名誉職としてマサチューセッツ州立大学(州内に4校あり、それぞれ学長がいる)全体の総裁をつとめるこ
とになる。いわゆる天下りの名誉職であるが、ものすごい高給取りの仕事である。しかし2002年、州議会は総裁職にあった彼を喚問し、逃亡者である兄との関係について質
問した。
ここでウィリアムは、逃亡中の兄とひそかに連絡を取っていたことを告白し、この発言がもとで総裁職を退くことになった。そんな状況にも関わらず、
そして、州立大学が予算難にあえぎ、授業料を値上げし、雇用をカットし、貧しい学生や職員、教官にしわよせが及んでいるただ中で、桁外れに巨額の退職金を
がっぽりつかみとってから辞めたのである。
はっきり言って「血は争えないわね」と思わざるを得なかった。
だから、私はこの弟、全然気の毒だと思っていないのである。彼が州からがっぽり絞りとったお金も、兄の逃亡資金になっていた可能性だってある。
ウィリアムは、連絡をとっていただけでなく、堂々と「兄を大事に思っている(Still love
him)」ことをその証人喚問で認め、「FBIに協力はしない」とまで明言していたのだから。私企業の人間ならともかく、州民の税金から巨額の給料をも
らっている人間が言うことではない。
現在、ウィリアムは数々の名誉職をつとめ、悠々自適の生活を送っている。
いずれにせよ、まさに映画のようなお話で、この兄弟をモデルにしたBrotherhoodという名のテレビドラマも優良ケーブル局で作られた。
まだ詳細はこれから明らかになっていくだろうが、高齢で身体も弱っているらしいので、バルジャーがどれだけ罪をつぐなうか、というのも怪しいところではある。
おそらく、またどこかのライターが彼にインタビューして逃亡中の話を本に書き、それがベストセラーになって、服役しながらもがっぽり儲けるんだろう。アメリカってそういう国なんである。ああイヤだイヤだ。