読書レビュー:山本一力「だいこん」

  • 2010.06.10 Thursday
  • 22:54
評価:
山本 一力
光文社
¥ 960
(2008-01-10)

JUGEMテーマ:読書

また気になる作家に出会ってしまった。出入りの読書掲示板で、「きっと気に入ると思います」と勧めていただいた作品である。

江戸の下町で一膳飯屋を営む若い娘、つばき。日雇い大工ながら腕がいい父親安治と、これまた気働きが良く、自分もけっこうかせげる母みのぶ、そして妹のさくらとかえで。気丈なつばきは数々の困難にもめげず、抜群の腕をふるって下町の労働者たちが喜ぶ味を提供していく・・・。

若い娘が江戸で、包丁一本でやっていくという設定は以前このブログに感想を書いた、高田郁の「みをつくし料理帖」にも似ている。しかし、作家が違うと似た設定でもこんなに違ってくるものか、と感心した。どちらもいい作品である。

「だいこん」の魅力は、勢いのあるストーリーと文体である。テンポがよく、一気に読ませる迫力がある。ぐいぐいと太い彫刻刀で一本の丸太から彫ったような勢いがあるが、しかし決して雑ではない。登場するたくさんの人々もそれぞれ奥行きがあり、圧倒的なリアリティがある。

主人公のつばきを取り巻く家族や友人、仕事仲間も、それぞれ欠点もあり、お互い感情に流されて傷つけあったり、誘惑に負けて失敗したり周囲に迷惑をかけたりもする。しかし、みんな悪気はなく、一生懸命家族や友達を大切にして生きているのである。家族同士、つい思いやりのない言葉を投げ合ってしまうこともあるし、かと思えば、思いがけなく頼りになる言動もあり、家族の絆をも強く感じさせる。世の中の人って、実はたいてい、みんなこんな感じなんじゃないだろうか。いつもいつも正しくはないし、過ちも犯すし、言っちゃいけないことを言っちゃったりすることもある。でもやっぱり家族や友達のことを愛していて、大事な人のために一生懸命一肌も二肌も脱ぐ(笑)。そうそう、世の中ってそういうものなんだよなあ、とうなずかせるのがこの本の魅力だ。


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読書レビュー: 「しゃばけ」シリーズ第6巻「ちんぷんかん」

  • 2010.06.08 Tuesday
  • 18:10
評価:
畠中 恵
新潮社
¥ 540
(2009-11-28)

JUGEMテーマ:読書

楽しみにしていた「しゃばけ」シリーズの「ちんぷんかん」が届いた。さっそく読む。

火事の煙を吸って気絶した若だんながなぜか、袖に鳴家たちを入れたまま、三途の川に来てしまう、「鬼と小鬼」。

若だんながよくでかける上野広徳寺で、妖(あやかし)退治が上手な高僧、寛朝の弟子、秋英が、一筋縄ではいかない商人父娘の絵草子に取り込まれ、和算勝負を繰り広げる「ちんぷんかん」。

若だんなの母、おたえの若いころの思い出話で、おたえが惚れた青年、辰二郎の叔父の家の謎を解く「男ぶり」。

若だんなの異母兄の松之助に縁談が持ち上がるが、相手の玉乃屋には色々複雑な事情があるようだ。式神を駆使して若だんなの命を狙ってきた陰陽師も絡んで、お話はさらにややこしく・・・「今昔」。

長崎屋に移植された古い桜の木は既に妖だった。その木から送られたのが花びらの妖、小紅。その命がはかないことを知り、若だんなは、なんとか桜の花を散らさぬ方法はないものかと弱い身体にむちうって奔走する。それを複雑な気持ちで見つめる仁吉と佐助。そして若だんなはあることに気づく。「はるがいくよ」


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読書レビュー: アメリカならではのリアリズムファンタジーの名作〜ベルガリアード(前3巻)

  • 2010.06.07 Monday
  • 22:22
JUGEMテーマ:読書

日本でも人気が高い、The Belgariad(ベルガリアード)全五巻のうち、最初の三巻がおさめられたやや大型のペーパーバック版。再読である。最初に読んだのは2004年なので、6年ぶりである。

このシリーズ、本当に好きだなあ、とつくづく思いながら楽しく読んだ。

主人公のガリオンや、ポルガラ、ベルガラスをはじめ、たくさんのなつかしいキャラクターに、まるでふるさとにでも帰ってきたような懐かしさと嬉しさ。おおまかなストーリーはもちろん再読だからちゃんと何が起きるかわかった上で読んでいるのに、それでもドキドキ楽しい。前回はストーリーを追うのに夢中で、けっこう読み飛ばしたディテールも今回はじっくり楽しめる。

というわけで、一回目よりも楽しいのである(笑)。

エディングス作品の魅力は色々あるが、妙にリアリティがある人物設定や細かい風景描写も大きな要素だろう。彼が大学時代、現代英文学(ヘミングウェイやスタインベックなど)を学んだ影響は大きかったらしく、彼が描く人々は絵空事の人たちにしてはいきいきとしており、それぞれに良さも欠点もあり、こんな人いるかも〜、と思わせるところが巧いのである。

皮肉なようで、シニカルなようで、どこかにしっかりと流れている正義感も魅力の一つだろう。
(以下はベルガリアードだけでなく、続編のマロリオンなど、シリーズすべてのネタバレを含む感想になります。ご注意ください)
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