読書レビュー:史実とフィクションが一体になったミステリー
- 2007.02.20 Tuesday
- 17:12
Murder at the President's Door (Eleanor Roosevelt Mysteries)
Elliott Roosevelt
アメリカの第32代大統領、フランクリン・ルーズベルト大統領の四男、エリオット・ルーズベルトによるミステリーシリーズ22冊の最終作。シリーズのほとんどが、ファーストレディのエリノア・ルーズベルトを探偵役とし、彼女がシークレットサービスの長であるシーガルやワシントンDC警察の殺人課の警部ケネリーと協力して、ホワイトハウスを舞台に起こる殺人事件を解決する、というもの。
今回この書評を書くに当たってちょっと調べてみて初めて知ったことだが、これらのシリーズはどうやらエリオット本人ではなく、他のミステリー作家によって代作されていたようだ。多くは、刑事コロンボの原作者であるWilliam Harringtonによって書かれたとのことで、エリオットの死後に出版されたこの作品は堂々と、Written by William Harrington for the estate of Elliot Rooseveltと書かれている。
誰が書いたにせよ、このシリーズの魅力は、アメリカの20世紀前半の歴史のお勉強にもってこいだということだ。ルーズベルト政権下のホワイトハウスの生活が鮮やかに描き出され、実際に起きたエピソードや語録が豊富に盛り込まれているのが楽しい。実在の人物も数多く登場し、後に日本進駐軍のトップとなったマッカーサー将軍、大統領の側近、実在のマフィアやギャングの大物、ルイ・アームストロングやベーブ・ルース、グロリア・スワンソンを初めとするスポーツや芸能界の有名人たちなどの名前やエピソードがあちこちにちりばめられている。
もう一つのよさは、非常にコンパクトで読みやすいということ。マスマーケット版のペーパーバックだが、印字が比較的大きめで行間もゆったりしているため読みやすく、そんなに長くもないので、あっという間に読める。文体もシンプルで読みやすい。あえて難しさをあげるとすれば、1930年代のアメリカカルチャーの話題がふんだんに盛り込まれているので、この時代にまったく興味が無いと面白くないかもしれない、ということだろうか。
今回は1933年。アメリカ史上唯一、四期連続で大統領を務めた(その後憲法改正により、大統領の任期は最大で二期となる)FDR(大統領の愛称)も、まだホワイトハウスに移ったばかり。当時のホワイトハウスは設備も悪く、あちこちガタが来ているが、ここでの生活費は、家財道具の持ち込みも含めて、大統領の家族が自費で賄わなくてはいけない。裕福な階層とは言え、大統領の病気や選挙で決して余裕があるとはいえない家計のため、エリノアは質素な生活を貫こうとする。
就任から数ヶ月もたたないそんな夜、大統領の寝室のすぐ外で、シークレットサービスのメンバーの1人が刺殺された。大統領を狙った暗殺者によるものか、それとも無関係の事件か。FBI長官フーヴァーはルーズヴェルト大統領を目の敵にしているため、できるだけFBIからも、またマスコミからも隠して事件を捜査するべく、エリノアは大統領に代わって事件捜査の指揮を取る。シークレットサービスの長官シーガルと、ワシントンDC警察署の殺人課のケネリーが彼女の手足となって捜査を開始した。調べれば調べるほど、ホワイトハウスのスタッフやそれを取り巻く人々の複雑な利害関係が浮かび上がってくる・・・。
(以下はネタバレ無しの感想です)