読書レビュー:みをつくし料理帖第十巻(最終巻)「天の梯」

  • 2014.08.31 Sunday
  • 22:56
JUGEMテーマ:読書

出入りの読書掲示板で勧められて一作目「八朔の雪」を読んで以来、ずっと読み続けてきたみをつくし料理帖シリーズがついにこの第十巻「天の梯」をもって完結した。

ずっと多くの読者に見守られてきた澪が、とうとう夢をかなえる日が来る…でも、どんな風に?彼女の途方もない夢が本当にかなうのか?

そんな気持ちでドキドキしながら本を開く。今回も前巻に続き、神戸に住むお友達のRさんが送って下さったのだ。Rさん、本当にありがとうございました。

今回は「結び草」「張出大関」「明日香風」「天の梯」の四章。

以下はネタバレになるかもしれないので、未読の方はご注意ください。
「結び草」
澪の良き友達である美緒を励ますために、澪が懸命に工夫した「葛尽くし」の料理。澪は澪で、自分の夢に向けてまっすぐ進む。色々な人の優しさがからみあう。

「張出大関」お城(江戸城)につとめる下級武士たちの弁当仕出しを引き受ける澪。そしてつる家でこれから料理を仕切っていく政吉が自然薯で作った料理がつる家の大人気献立となり客に「親父泣かせ」と名づけられる。そして武士たちに仕出しした弁当がお城でひそかに評判を呼び、将軍様の食事を管理するある人がその弁当を食べたがっているという知らせが澪の元に届く。

澪にはかなわない、と落ち込むこともあった政吉がこの「親父泣かせ」でつる家を仕切っていく自信を持った。澪が少しずつ料理を教えてきたふきは、この章で大失敗をする。落ち込むが、澪の指導はそんな時も愛情にあふれていて、人を教えるときはかくありたいものだ、と思わせた。澪の作るお弁当、私も食べてみたかった。お弁当を食べてみたいと言ったその人とはもちろん、誰だか読者にはわかるのである。

「明日香風」芳が嫁いだ料理屋「一柳」に客が不思議な食べ物を置き忘れていった。それはどうやら「酪(らく)」という特別なものらしい。源斉によるとそれは牛乳に砂糖を加えて煮詰め、固めたものらしい。労咳に効く薬として珍重されたが、当然牛は将軍家だけが養育している特別な乳牛だ。本来将軍だけが口にできるものだが、ひそかに高値で売られているという。その酪がなぜ一柳にあるのか。届けた主人の柳吾は自身番に連れて行かれてしまう。禁制の品を作ったという疑いをかけられたのだ。芳の息子で元料理人の佐兵衛の話にも何かひっかかるものを感じた澪であった。その後ひょんなことから、澪は佐兵衛と登龍楼の主人、采女宗馬の意外な関係と、なぜ佐兵衛が包丁を捨てて行方をくらましたのか、その本当の答えを知る。それは、この「酪」と大いに関係があった。佐兵衛は死を覚悟で自訴し、柳吾はお解き放ちとなる。

しかし佐兵衛は無事帰ってきた。御膳奉行小野寺(かつて澪が愛した人)の口ぞえでおかまいなしとなったのだ。晴れて過去を清算した佐兵衛は一柳の跡取りとなり、再び包丁を取る決意をする。

澪は小野寺家の近くの富士見坂へ走る。そして(おそらく彼女の生涯最後に)小野寺の姿を見る。無言で頭を下げる澪。歩み去る小野寺。

佐兵衛のことはある程度謎が解けていたが、まだこんな過去があったとは。そしてこの章で、ずっとこのシリーズの「悪役」だった采女宗馬との決着もつく。小野寺という過去への決別も、澪の場合はかたくななものではなく、感謝に満ちた静かなものだった。
ーーその道を行け、下がり眉
聞こえるはずのない声がして、澪は面を上げる。振り向くことなく、男は屋敷への道をまっすぐに進む。


映画の一シーンのようないい文だ。

「天(そら)の梯(かけはし)」
この章のネタバレは書くまい。澪がどうやって夢をかなえたか。そしてどうやって自分自身の進む道を決めたか。彼女の幸せはどこにあるのか。そのすべての答えがこの章にある。

ただただ、このシリーズにめぐり会えたことを感謝し、喜びの涙で読み終えた。

そして…この本のすべてがストーリーを語っている。これ以上はネタバレになるから書かないけれど、本文とレシピだけで本を閉じてはいけない。

このシリーズはNHKの連続テレビ小説など、長期にわたってじっくり丁寧に作るもので映像化して欲しいと切に願う。映画では足りない。12回1クールの連続ドラマでも足りない。ずっとこのシリーズを読みながらのんびりとキャスティングの妄想にふけったりしてきたので、完結した今も、自分の脳内で質のいいドラマを見せてもらったような感覚がある。でも実際にやっぱり観てみたいなあ(笑)。

読み終わったのは数日前だが、まだ余韻に浸っている。
コメント
初めまして、
最終巻を読み終えて、どこかへ書き込みしたくてこちらへ訪問させていただきました。
ファン納得の大団円でしたねえ。
私もぜひテレビなり映画を作ってほしくて、勝手に脳内キャスティングをして、今も余韻を楽しんでします。
それから高田郁さんがあとがきでその後を書く予定があるとおっしゃってましたので、これが今から楽しみです。
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