読書レビュー:「みをつくし料理帖」シリーズ「花散らしの雨」と「想い雲」

  • 2010.04.11 Sunday
  • 22:02
評価:
高田 郁
角川春樹事務所
¥ 600
(2009-10)

JUGEMテーマ:読書

日本から知り合いの方が送って下さった二冊。一巻「八朔の雪」を読んだのが昨年九月である。これも普段出入りしている読書掲示板で勧めてもらって読んだのだが、しみじみとしたあたたかい文体、ひたむきな主人公と彼女をとりまく人々のあたたかさに心惹かれてすっかり気に入りのシリーズとなった。

この週末、この二冊を一気に読む。薄幸の少女ふき、戯作者清右衛門、やりてのおばあちゃんのりうなどなど、新しい登場人物も増え、ストーリーはますます面白くなってきた。澪の恋、野江の運命、大店の娘美緒と源斉の仲、若旦那佐兵衛の行方、とこれから気になるプロットも増える一方だ。次が待たれる。

自分の簡単な覚書として各章の要約を以下に記す。当然ネタバレになるので、未読の方はご注意ください。
「花散らしの雨」各章あらすじ覚書

俎板橋から − ほろにが蕗ご飯
九段坂下に新店舗をかまえた「つる家」。新しいお得意客で、戯作者の清右衛門は気難しいが、なかなかの食通で、つる家を気に入ってくれたようだ。一方、下足番に雇った少女のふき。両親を亡くして不幸な生い立ちらしい。澪をはじめ、つる家の人々にかわいがられる。春の山菜をふんだんに使ったメニューを客に出す前から登龍楼に真似をされ、窮地に陥る澪たち。じつはふきはライバルの大料理屋、「登龍楼」の板前が送り込んだスパイだった。亡くなったふきの父親は登龍楼の料理人だったが、独立して店を出した。しかしその後すぐ夫婦ともに亡くなり、その借金があるため、登龍楼の奉公人となったのだ。幼い弟も登龍楼に奉公しており、つる家にスパイに行けと言われたふきは、イヤとは言えなかったのだ。しかしつる家の人々の優しさに動かされたふきは、もうスパイはしない、と決める・・・。

花散らしの雨 − こぼれ梅
若者が徳利を抱えてつる家の前で倒れた。徳利の中身は、流山の白味醂を改良した特製で、作った相模屋の奉公人留吉が、それを何とか江戸で売ろうとしていたのだった。しかし田舎者扱いされて誰も買ってくれないという。お芳が上方へ売り込むことを勧め、推薦の手紙を書いてやる。そんな折、吉原は翁屋の料理人又次が澪のところへやってきた。幼馴染で今はあさひ太夫と呼ばれ、幻の花魁となっている野江が目下の遊女をかばい、お客に切りつけられて怪我をしたという。頼まれて野江のために金柑の蜜煮を作るが、心配でいてもたってもいられなくなる澪。おりしも花見の時期となり、吉原は一般の人々のために町を開放する。留吉がお礼にと届けてくれた味醂の絞り粕「こぼれ梅」は野江の好物だった。それを届けるべく吉原へ向かう澪。野江の顔を見ることは出来なかったが、見上げる店の二階から見ているだろう野江のために、澪は野江がおまじないでしてくれたキツネの形を作る。澪が泣くたびに「涙はこん、こん」と野江が慰めてくれた形だ。野江の手がすっと出て、同じ形で振られる。いつかこの苦界から野江を救う、と心に誓う澪。

一粒符(いちりゅうふ) − なめらか葛饅頭
澪とお芳が住む長屋の住人で、つる家を手伝ってくれているおりょうの息子、太一がはしかにかかる。必死で看病するおりょう。つる家では人手が足りず、口入れ屋孝介の老母、りうが手伝いに来る。歯無しで見た目は怖く、口も達者だが手際よく、人情もあるりうはたちまちつる家に欠かせない人材になる。おりょうの夫、大工の伊佐三は大事な仕事を抱え、家族と仕事の板ばさみで苦しむ。太一は必死の看病の甲斐あってよくなったが、今度はおりょうがはしかになってしまった。お芳が看病にあたるが、おりょうを心配するのか、よくなった太一が何も食べてくれないので澪は途方に暮れる。りうの一言にヒントを得て、葛饅頭を作り、太一と一緒に食べる。やっとおりょうも回復に向かい、葛饅頭を食べた後、太一は安心したのか、澪にすがって号泣する。

銀菊 − しのび瓜

伊佐三の大工仕事のお客である伊勢屋の娘、美緒は若い町医者源斉に思いを寄せているが、源斉と澪の仲を疑ってつる家まで澪を見に来る。一方、澪がひそかに思いを寄せる侍、小松原がひさびさにつる家に姿を見せる。澪は夏の献立に、タコと胡瓜の酢の物をを作り、町人たちには大人気となるが、なぜか侍たちがつる家に足を運ばなくなったのをいぶかっていた。小松原が、胡瓜は徳川家の家紋の葵と似ているから、侍達がはばかっているのだ、と教えてくれる・・・。

「想い雲」各章あらすじ覚書

豊年星 − 「う」尽くし
「八朔の雪」で、いい昆布を手に入れるため、唯一手元に残っていた財産である珊瑚のかんざしを質に入れたお芳。つる家の主人、種市は探し回ってそのかんざしをお芳のために取り戻してくれた。そんなおり、戯作者清右衛門が版元の坂村堂の主人を連れてくる。グルメの坂村堂はつる家の料理を気に入って、献立を習わせようと、自分の料理人を連れてきた。その料理人はなんと、お芳の息子で江戸に支店を出した天満一兆庵の若旦那、佐兵衛と共に働いていた富三だった。富三は、お芳と澪に、佐兵衛は吉原で身代を持ち崩し、あげくの果てに遊女を身受けしようとしてあげくの果てにその遊女を殺して逃亡した、と言う。しかし、澪とお芳にはどうしてもその話が信じられなかった。一方、土用の日をむかえて澪は夏の献立に心を砕く。うなぎは高くて使えないので、「う」尽くしで卯の花和え、梅土佐豆腐、瓜の葛ひき、埋め飯。お芳は富三に珊瑚のかんざしを渡し、それを費用がわりに佐兵衛を探してくれと頼む。しかし何かおかしいと感じた澪は富三を問い詰め、ちょうど来合わせた又次の助けで、富蔵が嘘をついていたことがわかる。佐兵衛は真面目過ぎて奉公人に背かれ、自分がやってもいない女郎殺しの罪を着せられて逃げたのである。今は釣り忍売りに身をやつしている、とだけ吐き捨てて富三は去る。

想い雲 − ふっくら鱧の葛叩き
源斉に思いを寄せる美緒が頻繁につる家を訪ねるようになった頃のある日、源斉の母かず枝がつる家に新鮮な鰻を届けてくれた。美緒は見よう見まねで鰻をさばこうとして怪我をする。源斉と澪に、うなぎは毒が強いのだ、と怒られる美緒。鰻は源斉が、鱧を懐かしむ澪とお芳のために届けたものだったが、澪は気前良く「うざく」を作って店に出してしまう。源斉がくれた塗り薬を、澪はハマグリの貝殻に入れておいた。その頃又次が訪ねてきて、澪は野江が貸してくれた金の一部を返す。又次は鱧を調理しようとして怪我をした上、鱧は使い物にならなかったと話す。江戸の料理人は、鱧の骨切りを知らないのだ。貝ごと塗り薬を渡す澪。貝殻は澪に、野江と遊んだ貝遊びを思い出させる。また、小松原の姿が見えないので、しゃもじで客寄せのまじないをする澪。数日後、澪は源斉に頼まれて、翁屋で鱧を調理することになる。どうやら野江のために客が取寄せた鱧らしい。しかし澪と源斉が翁屋に行くと、翁屋の主人伝右衛門は女に料理などさせられない、とつっぱね、料理屋の料理人を呼びつける。しかし鱧の料理法を知らない江戸の料理人はやはり、鱧の血が目に入って、その毒で料理ができなくなったため、結局澪が鱧をさばいた。伝右衛門はその手練と味に感嘆し、澪にわびる。この日、吉原では花魁たちが「俄」で白狐を踊る。野江が客に切られたときかばった遊女菊乃の言葉に導かれ、澪は稲荷神社で遊女達が来るの待つ。キツネの面をかぶった遊女たちに取り巻かれ、澪はほんの一瞬、野江と再開した。言葉もかわせなかったが、野江は澪が又次に渡した白い貝殻を澪の手に残して去っていく。昔の貝合わせのように、いつか野江と澪が一緒になれる日への願いがその貝殻にはこもっているのだった。

花一輪 − ふわり菊花雪
つる家の名前もそのままの店が現れた。しかも、献立も真似した上、料理人は澪のように女だという。しかし料理の味はとてもつる家におよばず、とうとうそこで食べた歌舞伎役者が食あたりを起こす。同じ名前なので、多くの客が本当のつる家のせいだと思い込み、客足がとだえかける。ひさびさにやってきた小松原は、つる家を真似しているのは、つる家の献立を盗んで登龍楼から追い出された料理人、末松がつる家への嫌がらせでやっていることだ、と澪に教える。小松原の言葉をヒントに、澪は又次に応援を頼みながら工夫を凝らす。店先で魚を焼いたりして匂いで客寄せをし、新しく工夫したヒラメと山芋、菊花のあえものでまた大評判を取る。末松の店は間もなくつぶれた。小松原は再びつる家を訪れる。去り際に、小松原は駒繋ぎの花を見ると澪を思い出す、と言う。いかなる時も天を目指し、踏まれても、また抜かれても、自らを諦めることがない。見習いたいものだ、と。小松原が去った後、澪は泣き崩れる。

初雁 − こんがり焼き柿
ふきの弟で登龍楼に奉公している健坊が叱られて店を飛び出し、そのまま行方不明になった。つる家のみなは総出で探すがなかなかみつからない。ふきは自分がつる家でよくしてもらっているのに健坊は1人で辛い思いをしていた、と罪の意識にさいなまれ、食事を取れなくなってしまった。りうが手伝いに来て、店を開けるよう進言する。澪はふきと夜中に話し、ふきの思いを知った。健坊が帰ってくるよう、祈りをこめて陰膳を据え、渋柿を焼いて甘くしてやると、ふきはやっとそれを食べた。ちょうどその頃、りうの話で澪は小松原がどうやら江戸城土圭の間で、将軍様の献立を考える御膳奉行であるらしい、ということを知る。その翌日、千駄ヶ谷の百姓が健坊をつる家に連れてきた。道に迷って遠くまで行ってしまったらしい。こんこんと眠って目覚めた健坊は登龍楼へは戻りたくない、と泣く。その気持ちにほだされて、借金を肩代わりしよう、と考えた種市であったが、りうとお芳に反対された。かえって健坊のためによくない、と二人は言うのである。健坊の将来を考え、澪もお芳に賛成する。幼いふきと健坊も、それを聞いて覚悟を決め、健坊は登龍楼へ帰る。それを見送るふきは、いつか姉弟一緒に暮らせる日を想うのだった。

感想
親子(お芳の佐兵衛に対する気持ち、おりょう、伊佐三、太一親子)、姉弟(ふきと健坊)、友達(澪と野江)、恋心(又次→野江、美緒→源斉、澪→小松原)など、さまざまな人々の愛情が心を打つ。「花散らしの雨 − こぼれ梅」で、二階の窓から差し伸べられる細い手と、涙あふれる澪の間にかわされるキツネの手。「想い雲」で再開した野江もまた、キツネの面をかぶっていた。

小松原は前回ほど登場しないが、澪の恋心はそれゆえさらに募る。小松原も澪のことが気になる様子ではあるが・・・。さて、この二人の仲はどうなるのだろうか。身分違いでもあるし、なかなか難しいのはわかる。澪本人も望みがあるとはとても思っていないようだ。しかし小松原の三巻での最後の登場シーンでのセリフはこれまた澪がつい期待してしまうような罪作りなセリフである・・・。

新しく登場した人物はどれも魅力的だ。ずばずば言うが思いやりもあり、澪がはっと気づくようなアドバイスもしてくれる老女りう。小松原の正体らしきものが少しずつわかってきたのも、りうの言葉のおかげだった。

戯作者の清右衛門はこれまた気難しげだが、小松原などよりずっとお人よしである。

そしてふき。澪の子供時代と重なるような薄幸の娘である。しかし澪や種市、お芳、おりょうたちの愛情に育まれて、少しずつ心がほぐれてくるようである。それでも自分よりつらい環境で耐えている弟の健坊にすまない、という気持ちがあり、素直にそれを喜べないあたり、読んでいて胸が痛む。

毎章で紹介される料理のレシピ。こちらでは手に入らないものばかりで、読んでいるとちょっと切ないが(笑)、名前がまたいい。

和食は名前もみやびで詩的なものが多い。この本の料理のネーミングもセンスが良く、名前だけでも美味しそうな気持ちにさせてくれるから不思議である。

この小説、完結したらぜひドラマ化してほしいなあ。頭の中で勝手に配役など考えて楽しんでしまう私である(笑)。種市は絶対笹野高史さんでお願いしたいものだ。おりょうは渡辺えり子さん、お芳はそうだなあ、古手川裕子さんとか・・・。私は最近の俳優さんたちをあんまり知らないので、あくまで1990年前くらいまでの知識だけで妄想してるんだけど(笑)。こういう妄想は楽しいのである。読みながら、好きな俳優さんの声でセリフが脳内に聞こえたりするのはけっこういいものである。

とにかく、このシリーズは本当に読み心地がよく、あたたかくじわじわと感動できるシリーズである。お話がこれからどうなるのか、気になって仕方ない。あと何巻続くのだろうか・・・。
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