映画レビュー:カンバーバッチ主演で第二次世界大戦イギリス情報部の暗号解読に貢献した天才数学者の姿を描く「イミテーションゲーム」 

  • 2015.01.08 Thursday
  • 12:33
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ひさしぶりに映画館で映画を観てきた。

ベネディクト・カンバーバッチ主演のImitation Gameである。日本では3月に公開予定で、邦題は「
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」だそうだ。

実在の人物であるアラン・テューリングを、テレビドラマ「Sherlock」のホームズ役やスター・トレックの最新映画での悪役、そしてThe Hobbit映画三部作でドラゴンの声を演じるなど、今、もっとも旬なイギリス俳優のベネディクト・カンバーバッチが演じる。

アラン・テューリング(日本ではチューリングと表記されるようだ)についてはこちらをごらんください。

彼が第二次大戦下のイギリスで、情報部のもと、全国から集まった精鋭とともにナチスの暗号解読のための機械を開発し、ナチスが解読不能を誇った暗号「エニグマ」に成功するまでの様子が物語の中心である。

数学者としては非常に優秀だが、アスペルガー症候群を暗示させるような行動を取るチューリングを、カンバーバッチは細かいところまで丁寧に演じていた。物語は時々フラッシュバックでチューリングの寄宿学校時代の回想をはさみこむ。苛められていたチューリングを救ってくれた友。その友達がくれた本が、彼が暗号解読に興味を持つきっかけとなる。

暗号解読チームは極秘プロジェクトとして、ブレッチリー・パークという場所で働く。何をしているのか家族にも恋人にも言えない状態で日々ナチスの暗号を解読していた。それぞれ個性あふれるメンバーだ。イケメンでちょっと調子がいいヒュー・アレクサンダーは最初の頃、チューリングとよく衝突するが、やがてチューリングの心強い味方となる。温厚だが実はとんでもない秘密を抱えているジョン・ケーンクロス(ダウントン・アビーでおなじみのアラン・リーチが演じる)、一番若いマシュー・ビアード。それに女性ながら暗号解読に非凡な才能を発揮したジョーン・クラーク(キーラ・ナイトリーが抑えた演技で見事に演じた)。

非常によく出来た映画だった。チューリングの過去と現在の話は一見関係がないようだったが、最後にしっかりとつながっていく。そのつながりがわかった瞬間の切なさと悲しさ。

そしてチューリングの生涯の最後は本当に気の毒なものだった。当時の法律の理不尽さが本当につらい。色々なことを考えさせる映画でもあった。だが、この部分は日本の人にはピンと来ないかもしれない。

戦後から既に70年が過ぎようとしており、いまや戦中のみならず、戦後の1950年代を舞台にしたドラマでさえ、アメリカでもイギリスでも「時代劇」(Period Drama)と言われるようになってしまった。戦後は遠くなりにけり、である。

1時間54分と、最近の映画にしてはそれほど長すぎず、よく編集されていると思った。秀作である。

映画レビュー:「舟を編む」〜適材適所と一生を賭ける仕事

  • 2014.05.28 Wednesday
  • 22:14
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テレビジャパンで放送された映画「舟を編む」を録画してじっくりと観た。英語字幕なので、あとでアメリカ人の夫にも観てほしいと思っている。

原作は以前、NHKの「週刊ブックレビュー」で紹介されており、読みたいな、と思って日本のアマゾンのウィッシュリストに登録してあったが、まだ未読。

「大渡海」(だいとかい)という新しい辞書を編纂する出版社の人々と監修をつとめる大学教授の10数年を描く物語である。

松田龍平演じる馬締光也(まじめみつや)は出版社の営業部に勤務していたが、人とのコミュニケーションが極端に苦手で仕事がうまくいかない。そんな彼を、引退を間近に控えた辞書編集部のベテラン、荒木(小林薫)が抜擢する。マジメ、とみんなに呼ばれる光也はそこで抜群の才能を発揮し、同僚で、明るい性格でちょっとお調子者の西岡(オダギリジョー)や、監修者である国語学者の松本朋佑(加藤剛)と共に13年という長い歳月をかけて、「大渡海」の出版に向けてひたすら編纂授業に没頭する。

映画を観終わってまず思ったことは原作を読まなければ、ということだ。映画がこれだけ感動的だったのだから、原作はおそらくもっと読み応えがあるだろう、と思った。

そしてキャストの素晴らしさ。
松田龍平の、冒頭での登場から最後のシーンまでの演技が素晴らしい。不器用で人とまともに顔さえ合わせられなかった青年が自分の一生を賭ける仕事にめぐり合えたことで、人間として成長していく姿がしっかりと表現されている。同僚でちょっとちゃらんぽらんなようだけど、優しくて実はけっこう熱いものをもっている西岡を演じるオダギリジョーもいい。気品と知性と、若者を上から目線ではなく、決して衰えない好奇心と暖かい共感で見守る松本教授を演じる加藤剛が素晴らしい。下宿屋の渡辺美佐子(ひさびさに元気な姿を観て嬉しい)、新人として13年後に辞書編集部に配属になる岸辺みどり役の黒木華さんの存在感がいい。マジメが恋をする女性、香具矢(かぐや)の透明感がいい。

言葉を愛する人間として、辞書というものが作られていく過程を多少なりとものぞくことが出来たのも楽しかった。新しい辞書を一から作るということの大変さを垣間見た思いだ。

ここから先は映画のネタバレになるので要注意です。
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映画レビュー:Big Night(邦題:リストランテの夜)〜 アメリカで奮闘するイタリア人兄弟の悲喜こもごも

  • 2013.12.07 Saturday
  • 20:40
評価:
---
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
¥ 1,000
(2008-06-20)

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以前からずっと気になっていたこの映画をやっと観ることができた。データなどはこちら。

あらすじ
1950年代のニュージャージー州で(マンハッタンからハドソン河を南に渡るとすぐニュージャージー州である)小さなイタリア料理店「パラダイス」を営む兄弟のお話。兄のプリモ(プリモは一番、という意味なので、一郎という感じ)はシェフ、弟のセコンド(二郎という感じの名前)はマネージャーだが、料理の下準備は2人でやっている。プリモは職人気質で、本格イタリア料理にこだわっているので、アメリカ人の客の舌には合わないのか、商売はあまり流行らない。いっぽう、通りの向かいにあるイタリア料理店(オーナーの名前をとって、「パスカルの店」)は味こそ二流だが、アメリカ人向けの商売のやり方で大繁盛している。

セコンドにはフィリスというガールフレンドがいるが、商売がうまくいっていないこともあり、彼はフィリスとの関係に今ひとつ責任を持つ気になれず、パスカルの妻のガブリエラとも浮気をしている。資金繰りに苦労するセコンドに、パスカルは店を閉めて、兄と共に自分の店で働かないかと誘う。それを断るセコンドに、パスカルは、ならば人気歌手のルイ・プリマを兄弟の店につれてきてやる、と言う。それが客寄せになる、と信じたセコンドはプリモを説得し、二人は残った資金のすべてをその特別ディナーの準備につぎ込む。

そして当日、フィリスも準備を手伝い、パラダイスには地元の新聞記者をはじめ、近所の人々やパスカルとガブリエラなど、ルイ・プリマを目当てに多くの人が集まる。惜しみなく費用を使い、プリモがそのシェフとしてのプライドをすべて賭けて作った素晴らしいイタリア料理のコースに舌鼓を打つ人々。しかしルイ・プリマは現れないまま夜が更けていく…。
感想
プリモを演じるトニー・シャルーブは、1990年代に人気を誇ったテレビコメディ、Wingsのアントニオ・スカルパッチ役以来、大好きな役者である。その後、Monkという探偵ドラマで長年主役をつとめ、一躍スターになった人だ。とにかく芸の幅が広く、シリアスも悪役もコメディも気の毒な男も、変な外国人役も、なんでもこなしてしまう人だ。ご本人はれっきとしたアメリカ生まれのレバノン系アメリカ人だが、イタリア系、アラブ系などの外国人を演じることが多かったので、Monkで普通に英語をしゃべっているのを聞くと違和感を感じたりしたものだ(笑)。

弟のセコンドを演じ、脚本(ジョセフ・トロピアーノと共同執筆)と監督(キャンベル・スコットと共同監督)もつとめたスタンリー・トゥッチもこれまた才能豊かな人で、「Shall We Dance?」の米国版では、オリジナルの日本版で竹中直人が怪演した(笑)あの役を、もうちょっと若くてナイーブな感じで、でもやっぱりどこかキモイ雰囲気で(笑)、見事に演じた。料理研究家、ジュリア・チャイルドの生涯を描いた「Julie & Julia」(ジュリー&ジュリア)では、ジュリアの夫で外交官だったポール・チャイルドを、静かな押さえた演技で演じた。

この2人が17年前にがっぷり四つに組んで熱演した映画である。まず、実感したのは2人とも若かったなあ、ということである(笑)。とくにトゥッチのハンサムっぷりと言ったら。50年代のファッションや髪型がよく似合っていて本当に、ニュージャージーやニューヨークエリアのイタリア移民の若者らしさが溢れていた。アメリカで生まれたイタリア系ではなく、夢を抱いてイタリアからやってきた兄弟の悲喜こもごもを、この2人は本当によく表現していた。

ストーリーは淡々としているのだが、最後の方で兄弟がお互いの感情をぶつけ合うシーンに向かう感情の盛り上がりが実に見事だ。2人が取っ組み合いの喧嘩をした後の、早朝のレストランのキッチンでのエンディングは秀逸の一言。この後2人がどんな決断をするのか、観客にはわからず、ただ想像するしかないのだが、兄弟の絆だけは信じることが出来る。

そして、全編を通じて画面に登場する、それはそれは美味しそうなイタリア料理。画面から香りがただよってくるようだ。派手な映画ではないが、大人向けのコメディ、それも大声を出して笑うのではなく、しみじみと、時々クツクツと笑いがこぼれるような、でもホロリとする、まさにペーソスあふれる人間ドラマである。美味しいものが出てくる映画が好きな方には特にお勧め。

映画レビュー:現代の寓話?「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」

  • 2013.09.13 Friday
  • 22:07
評価:
---
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
¥ 1,809
(2013-06-05)

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好き嫌いが分かれる映画ではあると思う。公開当時、とても観たかったのだが忙しくて映画館に足を運べなかった。先日やっとケーブルのプレミアムチャンネルで観ることが出来た作品。原作の小説はまだ読んでいない。

パイ(円周率のπを表す英語表記のPi で表される主人公のあだ名)の叔父に紹介されて、彼を訪ねる物書きの白人男性。カナダに住む、今では中年男性となったパイは自分の体験を話し始める。

パイはインドで生まれ、動物園を経営する両親と兄の四人家族の中で育った。幼い頃から、ヒンドゥー教、キリスト教、そしてイスラム教に関心を示し、三つの宗教すべてを信仰するようになったパイ。彼が10代のとき、家族は新天地を求めて親戚が住むカナダへ移住することになった。貨物船で動物たちと共に海を渡る家族だったが、嵐にあい、船は遭難。ただ一人生き残ったパイは、シマウマ、ベンガルトラ、オランウータン、ハイエナと共に救命ボートに取り残されることとなる。そして彼の漂流サバイバルが始まった。

この映画はそこから彼とベンガルトラ(他の動物は比較的すぐに物語から消えてしまう)の漂流生活を描く。トラに怯えるパイはさまざまな工夫をこらして、攻撃されないようにし、食料を確保していく。宗教上、それまで菜食主義を貫いていたパイは、生きるために、祈りながら魚を釣り、祈りながら禁を破ってその魚をトラと分け合い、食べる。

映画を観ている人間にとっては、ファンタジーとしか思えないような不思議なロビンソン・クルーソーもどきの、波上の暮らしが語られていく。CGをふんだんに使ったとてもリアルなトラの表情や動き(ほとんどのシーンは人間と近いところで動いているのだが、これは本物のトラではなくCGだったそうだ)、またパイが遭遇する数々の不思議な体験。遭難するまでの物語が非常にリアルであるため、観ている私たちは混乱しながら観ることになる。どうして突然現実味のない話になっていったのか、この結末はどうなるのか?

映画のオープニングからもわかるとおり、パイは死なずに無事、救助された。そして今のパイがいるわけだから、それだけは私たちは理解してこの物語についていくのである。

そして最後まで映画を観たとき、私たちはこの映画の一見ファンタジーのような不思議な物語が何を意味するかを悟り、そこで呆然とするのである。そしてもう一度、最初からこの映画を観たい衝動にかられるのである。

(ここから先はネタバレの感想になります。ご注意ください)


 
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映画レビュー:ホワイトハウスの黒人執事の半生とアメリカ市民権の歩み「The Butler」

  • 2013.09.11 Wednesday
  • 21:06
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比較的最近観た映画が何本かあるので、時間を見て少しずつここに感想を書いていこう。

今日は、8月末に夫の家族と皆で観に行ったThe Butler。(ザ・バトラー)

Butlerとは執事のことである。実話に基づいてはいるものの、かなり脚色を加えている。

南部のコットン農場で使用人として両親と共に育った黒人のセシル・ゲインズは、少年の時、雇い主である白人男性に母を犯され、それを怒った父を射殺される。母は気が狂ったようになり、口を利かなくなる。雇い主の母は彼を憐れみ、農場から少年の仕事を屋内での仕事に移して読み書きなども教える。やがて思春期になった彼は農場を去る。飢えのあまり盗みを働こうとしてホテルに押し入った彼はそこで働く年配の黒人、メイナードに色々な技術を教わり、やがて彼の紹介で首都ワシントンDCのホテルで働くようになる。この間に、彼はグロリアという妻を得て二人の男の子を設ける。そして1957年、彼はホテルのバーの得意客だったホワイトハウスの支配人にスカウトされてホワイトハウスのバトラー(複数いる)の一人として雇われるのである。

アイゼンハウアー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン、リーガンと(カーターは登場しない)大統領は変わっていくが、ゲインズはその間ホワイトハウスでそれぞれの大統領のもと、仕事を続けていく。一方、彼の長男、ルイスは時代の波の中、市民権運動に身を投じていく。体制に甘んじているかのように見える父親に不満を抱くルイスと、危険な運動に明け暮れる長男の身を案じるゲインズ。そしてそんな二人の間で母として、妻として悩むグロリア。そしてやがてゲインズが仕事から退く日がやってくる。引退後、彼が思っても見なかった日がやってくる。自分と同じ、黒人が大統領として立候補したのだ…。

設定そのものはネタバレというより、アメリカ人なら見なくてもわかる。アメリカの戦後史をそのままたどっているようなものだからだ。ゲインズのモデルになった執事はいるが、市民権運動に没頭する長男ルイスの話や、途中で登場する妻のエピソードなどは完全なフィクションである。

ルイスの話を加えることで、黒人男性であるゲインズの生涯と並行して、アメリカの市民権運動の歩みが生々しく語られているのである。



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映画レビュー: Les Misérables

  • 2012.12.27 Thursday
  • 21:41

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クリスマスは夫の家族とフィラデルフィアで例年通りのんびりと過ごしてきた。

今日ボストンに戻ってきたが、昨日はレ・ミゼラブルの映画版を観てき
た。有名なミュージカルで、原作も有名な小説なので、多くの人はある程度のあらすじや登場人物は知っているかと思う。

舞台で観る生の迫力とはまた違った良さがあり、ビジュアルのスケールの大きさは特にすごかった。

俳優陣ですが、ヒュー・ジャックマンのジャン・バルジャン、アン・ハザウェイのファンテーヌはどちらも息を飲む素晴らしさだった。歌も演技も言うこと無しである。ジャン・バルジャンは難しい歌がたくさんあるので、さすがのジャックマンでも大丈夫かな、と心配したのだが杞憂だった。ミュージカル一本でやっている俳優さんたちではもっと上手い人がいくらでもいるだろうが、彼なりには素晴らしい出来だったと思う。

一番、歌のテクニックが問われる(と思っています)Bring Him Homeという歌も見事に歌い上げた。後から吹き替えで歌を入れるのでなく、撮影の時ライブ録音したとのことだが、そのおかげもあって生の感情がしっかりこもっていて舞台と同じような迫力となった。ハザウェイのI Dreamed a Dreamも圧巻。

エポニーヌやマリウス、コゼットや革命の若者たちを演じた若手の皆さんも見事な歌唱力。キワモノキャラのテナルディエ夫妻はイギリスの鬼才コメディアン、サッシャ・バロン・コーエンと我らがヘレン・ボナム・カーター。コーエンは歌は今ひとつだったが、歌唱力でこの役をもらったわけじゃないのでまあいいかと。演技は言うことなし。ヘレンは相変わらずこういう役をやらせたら誰もかなわない。あの目の据わり方ったら(笑)。

ロンドンとブロードウェイの両方でジャン・バルジャン役を初演したコルム・ウィルキンソンがジャン・バルジャンの人生を変え、最期を看取る司教の役で特別出演しているのも感動的だった。ミュージカルファンにとってはこれこそ、歌舞伎で言う「ご馳走」である。

一つ残念だったのが、ジャベール警部を演じたラッセル・クロウ。演技は素晴らしかったのですが歌が…。いや、決して下手だったわけではない。歌そのものはそれなりに上手なのですが、音域が低いのか何なのか、歌い方がとても穏やかすぎて、ジャベールらしくなかった。

ジャベールは仮釈放の規則を破って事実上逃亡生活をしているジャン・バルジャンを執拗に追いかける警察官である。バルジャンの囚人時代から彼に目をつけており、彼が悔い改めることなど一生ない、と固く信じていて、法がすべての正義だという観念に凝り固まっています。ジャン・バルジャンを逮捕することに執着している。このお話のメインの悪役なのである。

彼が歌うときはそれがジャン・バルジャンとの会話であろうと、独白であろうと、常に狂信的なまでの執念が現れなくてはならず、観客は彼のことを自然と憎むようにならなくてはいけない。その情熱があまりにも極端で独善的であるので、それに対して、何なの、こいつは、という気持ちをもたせなくてはいけないのだ。

ところが、ラッセル・クロウの歌い方は穏やかで、下手をするとこの人に共感したくなってしまうような、そんな感じである。それではこのジャベールという人間と、ジャン・バルジャンの対比が生きてこない。ジャベールが最後のソロを歌う時、そこで始めて観客は彼に対する同情を覚えなくてはいけないのだ。

生涯の敵として、救いようのない犯罪者として見下してきたジャン・バルジャンに命を救われたジャベールは、生まれて初めて、自分が固く信じてきた善悪の基準が自分の中で崩れて、人格崩壊を起こす。

その時彼が歌う歌で、観客は初めて彼に同情を覚えなくてはいけないのだ。

ところが、ラッセル・クロウには、ジャベールの獰猛なまでの傲慢さがなかった。なので、その部分のドラマがよく伝わらなかったと思う。

もう一つ気になったのは、誰かが大きなナンバーを歌うたびに、カメラワークがただただ顔のクローズアップばかりを繰り返したことだ。歌うとき、役者は全身で演技している。それをちゃんと映して欲しかった。今は映画の技術が発達しているから、大きなスクリーンで顔がアップになると、毛穴の一つ一つまで見えてしまう(苦笑)。長い歌で、そればかりずっと見せられているのも正直単調かつうんざりしてしまうのだ…。

しかし、全体の出来は素晴らしかった。ミュージカル好きの人にはお勧めだ。そして、これを観たら、日本語版でもいいのでぜひ舞台を観てほしい。

私は1989年に帝劇で日本語版を観た。滝田栄のジャン・バルジャン、村井国夫のジャベール、野口五郎のマリウス、島田歌穂のエポニーヌ、斉藤晴男のテナルディエ、松金よね子のテナルディエ夫人という顔ぶれだった。力強い舞台で、持ってきたハンカチがびしょびしょになったのを覚えている(笑)。

こちらではまだ生の舞台は観ていないが、10周年を記念してロイヤル・アルバート・ホールで行われたコンサートスタイルのイベントはテレビで観た。

それらを思い出させると共に、やはりレ・ミゼラブルは素晴らしいミュージカルだなあと実感した。

映画レビュー「Lincoln」スピルバーグ渾身の大作

  • 2012.12.12 Wednesday
  • 09:37
JUGEMテーマ:映画

さて、遅くなったが、フロリダ旅行中に夫やその両親と四人で観に行った映画、Lincolnの感想である。

スティーブン・スピルバーグ渾身の大作で多分今度のアカデミー賞には色々ノミネートされそうな歴史大作。リンカーンが大統領として合衆国憲法第13条(奴隷禁止)を成立させ、暗殺されるまでの数ヶ月を描いたもの。

原作とされているのは、Doris Kerns Goodwinによるリンカーンの伝記、Team of Rivalsである。(下参照)私は五年ほど前にこれを読んだ。というか、オーディオブックで聴いたのだが(笑)。

その映画化。と言ってももちろん原作の本はリンカーンの生涯すべてをカバーしているので映画化されたのはほんの一部である。

二時間半の超大作だが、その長さも感じず、見事にひきこまれた。キャストも素晴らしい。

リンカーンはダニエル・デイ・ルイス。妻のメアリーはサリー・フィールド。自らこの役を志願したそうだが、これまたオスカーにふさわしい名演。大統領選挙まではライバル候補として激しく戦ったが、その後国務長官となり、リンカーンが最も頼りとした側近の1人、スワードにはデヴィッド・ストラザーン。当時はリベラルだった(今からは想像もつかないが)共和党のもっとも急進的な上院議員スティーブンスを演じたのはトミー・リー・ジョーンズ。ロビイストとして13条の成立に力を注いだウィリアム・ビルボ役はジェームス・スペーダー(この人、StargateやWolfの頃はすごい美青年だったんだけど、まあ見事にオジサン化したなあ…苦笑)。そして、自由黒人でメアリーと親しかったエリザベス・ケックリー役はグロリア・ルーベン。リンカーンの長男、ロバート役はジョゼフ・ゴードン=レヴィット。

うーん、豪華だ(笑)。

見事なセット、衣装もさることながら、脚本もよく練り上げられていて、よく出来た映画だった。それぞれの人物も丁寧に描き込まれている。親としてロバートを戦場に送りたくないリンカーンとメアリー。大学を口実にとどめられていることにいらだつロバート。

親として、夫としてのリンカーン。私は女であるせいか、そういうシーンの方が印象に残ったが、同時に南北戦争という、おそらくアメリカ史上最大の危機であったこの時を乗り切ろうとする政治家たちの必死な努力がこの映画では真摯に描かれていた。

正直に言うと、色々なディテールがありすぎて、一度観ただけだと、その圧倒的なスケールとストーリーに飲み込まれてあっというまに2時間半が過ぎた、という印象だ。なので、これはもう一度ちゃんと観ないといけないなあ、という気がする。しかし名作だと思う。

ちなみに今月はこれから観たい映画が目白押しである。ピーター・ジャクソンのThe Hobbit、ヒュー・ジャックマンやアン・ハザウェイ、ラッセル・クロウのLe Miserable、ビル・マーリーがフランクリン・ルーズベルト大統領を演じるHyde Park on Hudsonなどなど。

しばらく映画館からは遠ざかっていて、夫の家族と会うクリスマスやサンクスギビングだけが映画を観に行く時期になっていたが、今月はどれも観たい!何とか時間を作りたいものだ。

映画レビュー:Tower Heist (邦題:ペントハウス)

  • 2011.11.27 Sunday
  • 11:05
JUGEMテーマ:映画

ベン・スティラー主演、共演者にエディ・マーフィー、ケイシー・アフレック、アラン・アルダ、マシュー・ブロデリック、ガボレイ・シディベ、マイケル・ペーニャ、ティア・レオーニ、ジャド・ハーシュなど。

あらすじ:ベン・スティラー演じるジョッシュはマンハッタンの超高級アパートのマネージャー。一流ホテルのようなサービスを提供するこのホテルにはたくさんの従業員がおり、彼らをまとめるのが仕事だ。このアパートの最上階(ペントハウス)に住む大富豪のアーサー・ショウ(アラン・アルダ)は従業員たちに気さくに声をかけ、評判がいい。

しかし、ある日、ショウは突然FBIに逮捕される。そしてジョッシュは、ショウが従業員たちの退職金を投資すると持ちかけて騙し取っていたことを知る。逮捕されたショウが集めた金はどこかへ消えてしまった、従業員たちは一文無しになったのだ。

怒りにかられたジョッシュはショウが大事にしているスポーツカーのレプリカを破壊し、クビになる。そして彼はショウと一緒にいたためにとばっちりを食らってクビになったコンシエルジュのチャーリー(アフレック)、エレベーターマンのエンリケ(ペーニャ)、元アパートの住人で元ウォールストリートの投資家フィッツヒュー(今は倒産して家族に逃げられ、一文無し。ブロデリックが演ずる)を誘う。FBIの女性捜査官クレア(ティア・レオーニ)が同情して、酔った勢いでショウの隠し金がどこかにあるはず、と教えてくれたので、ショウのアパートに潜入し、それを探して盗もうというわけだ。

アパートを改造したときにショウが残したコンクリートの壁が怪しく、金庫が隠されているに違いない、とにらんだジョッシュは、小学校時代の同級生で、今では泥棒になっているスライド(エディ・マーフィー)を誘う。スライドは彼らに特訓を施すが、金庫破りにはさらに誰かが必要なため、ジョッシュらの元同僚で、今でもその高級アパートでメイドを務めるオデッサ(シディベ)をスカウトする。彼女の父は錠前師で、彼女もその技術には長けているからだ。サンクスギビングの日をターゲットに、FBI、ショウ、そしてアパートの厳しいセキュリティ、サンクスギビングのパレード(アパートの前を通る)をすべて逆手に取った大作戦が始まる…。


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映画レビュー:Harry Potter and Deathly Hallows Part 2 (ネタバレあり)

  • 2011.07.21 Thursday
  • 23:21
JUGEMテーマ:映画「ハリー・ポッター」シリーズ

IMAX シアターにてハリー・ポッターシリーズの最終作の3D版を観て来た。これでついに完結である。

私は映画よりも原作ファンなので、今までの映画版は楽しんでは来たものの、色々不満も多かった。しかし今回のDeathly Hallowsに関しては、Part 1もPart 2も、原作ファンとしてはおおむね満足である。よい出来だったと思う。

ここから先の感想は、原作(7巻まですべて)も含めたネタバレとなります。映画をまだ観ていない方だけでなく、原作未読の方も、ご注意ください。


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ひさびさに観た日本の漫画と「娯楽映画」〜「20世紀少年」三部作

  • 2011.07.15 Friday
  • 14:07
JUGEMテーマ:映画読書

日本の友人が送ってくれた漫画「20世紀少年」と「21世紀少年」を読んだ。全部で24冊という大作。もっとも、今の漫画界では、これよりもっと巻数が多い作品はたくさんあるから、このくらいは長編とはみなされないのかもしれないが・・・。

私はもともと自分から漫画を買うことはあまりなかった。月刊誌を買うこともなかったし、自分で持っている漫画はほんの少しである。たいてい姉や友人が貸してくれたりして読むことになったものが多い。

そんななか、今回友人が送ってくれた「20世紀少年」はなかなか刺激的だった。複雑なタイムライン、プロット、人間関係。近未来SFでもあり、ミステリーのようでもあり、「ともだち」の正体が誰か、ということで。連載当時は色々と話題にもなったようだ。

とにかく面白くて一気に読んだ。ストーリーだけでなく、画風も好みだったのが良かったのかもしれない。

そして三部作として映画化されているということも知り、映画が観たくなった。そこで借りてきた。日本食料品店のレンタルDVDである。

日本映画はときどき観ているが、実写映画は「文芸作品」色が濃いものがほとんどだった。「おくりびと」や山田洋二監督の時代劇、あるいは「フラガール」など。

だから、この手の映画はずいぶんひさしぶりに観たような気がする。そういうこともあり、新鮮ですっかり楽しませてもらった。


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