エリック・ローゼンブリス先生追悼

  • 2010.12.16 Thursday
  • 22:18
JUGEMテーマ:アメリカ生活クラシック音楽

アメリカの大学院時代からずっと何年もお世話になっていたバイオリンの巨匠、エリック・ローゼンブリス(Eric Rosenblith)先生がこの12月15日に亡くなられた。享年90歳。

ローゼンブリス先生の思い出は尽きない。最初にお会いしたのは留学二年目のことである。先生のお弟子さんのリサイタルの伴奏をすることになり、半年近く、一緒にレッスンに通った。ベートーヴェンのバイオリンソナタの7番や、サラサーテのマラゲーニャなどで色々と教えていただいた。バイオリンだけでなく、伴奏しているピアノの生徒にも指導、助言を惜しまない人だったので、私もたくさん勉強させていただいたものである。

その後、学校を卒業してから4年間、私はローゼンブリス先生と、もう一人のチェロの先生が主催する夏の室内楽音楽祭に参加した。

高校生からプロまでがヴァーモントの自然の中で5週間を共にし、リハーサルやレッスン、マスタークラスを通して研鑽しあい、そして演奏会でその成果を披露するこのフェスティバルは私の人生を変えた。

もともと室内楽も伴奏も好きだったが、自分の本領はここにある、と気づいたのがこの音楽祭だったし、その後カンザスで勉強が続けられるよう、骨をおってくださった方に出会えたのもこの音楽祭だった。卒業後日本に帰ろうと思っていた私の気持ちはここで変わり、私はアメリカに残ることにしたのである。

その後、残ろうとした結果、つらいこともたくさんあったが、四年間私を支えたのは、
「一年間頑張ればあの音楽祭が私を待っている」
という思いだった。

たくさんのすばらしい先生方、そして音楽仲間たちと、外界からほぼ遮断された状態でヴァーモントの夏の自然に囲まれ、音楽だけに没頭できる五週間は、私にとって「楽園」だった。そして、そこでも、ローゼンブリス先生にたくさんコーチしていただいたものだ。

ご自身が優れた音楽家であり、ティボーやカール・フレッシュに師事した先生の音楽は豊富な体験と、深い芸術性に裏打ちされており、そして何よりも、音楽に対してたとえ一音も気を抜かない、張り詰めるような情熱が先生の音楽を貫いていた。

音楽祭でも、教えるだけでなく、自ら率先して演奏されたが、愛器のストラディバリと共に火の玉と化したかのようなその演奏振りは、いつも私たち、若い音楽家を圧倒した。

私がカンザスからボストンに戻ろうと決心したときも、先生に相談させていただいた。カンザスにも客員教授としてよくいらしていた先生に助けていただき、ボストンでもう一度学校を探し、先生の紹介で奨学金をいただいてなんとか合法滞在を続けることが出来たのである。

ボストンに戻ってきたときの私はほとんど無一文だった。そんな私に、ローゼンブリス先生は次々とご自分の生徒を紹介して、伴奏の仕事を与えてくださった。これがどれほどありがたかったことか・・・。

頑固な一面もお持ちだったが、普段はいつもにこやかで、フランス仕込みのマナーがエレガントな紳士でいらした。お会いすると必ず両頬にキスをしてくださったものだ。

1968年から私のボストンの母校で教え、2007年に引退。その間、20年以上に渡って、弦楽器科の主任も勤められた。常時30人以上の弟子がいて、今、大学で教えるようになってみると、それがいかにすごいことだったか、少しだけわかる。一分足りとも気を抜かず、毎日週六日間、夜10時まで教えていらした。教えることが生きがいで、インタビューでも
“I breathe, therefore I teach,”
(我呼吸す、ゆえに我教えるなり)
とおっしゃっていたそうだ。

ここ10年ほど、お会いする機会もなくなっていたが、まだまだ耳は遠くなったものの、お元気だとうかがっていた。突然のニュースに、フェースブックを見ていてもアメリカ全土、そして世界各地に散らばっている教え子たちのショックは大きい。

70歳を過ぎてもあれだけお元気な先生だったから、私たちは、先生ならきっと100歳を過ぎてもお元気で演奏したり教えたりしていらっしゃる、と勝手に思い込んでいたようだ・・・。

本当に皆のお父さんのような先生だった。バイオリンの生徒だけでなく、先生に薫陶を受けた音楽家は多い。私のようにピアノ弾きや、他の弦楽器でも、先生に室内楽を教えていただいた学生は多かっただろう。

音楽祭のカフェテリアでテーブルを囲みながら先生のお話をうかがったことも忘れがたい。第二次大戦中、兵隊だった先生は、郵便物を配る係りだった。この仕事は昼食中に行われる。兵士が食堂に集まる唯一の時間だからだ。だから急いで配って、急いで食べないと、昼食を食べ損ねてしまう。それ以来、早食いになった、と先生は笑っておられた。

実際、先生が食べる速度は信じられないくらい速かった。私たちと一緒に席につき、私が二口食べた頃には先生のお皿はもう空だった。かといって、お行儀悪くがっつくわけでもなく、会話が途絶えるわけでもなくて、私たちはいつも不思議に思っていたものだ。音楽祭でも空き時間はすべて若いバイオリニストたちへの無料レッスンに明け暮れ、とにかく教えることにその後半生をささげた方であった。

今でも目を閉じるとその笑顔、その笑い声、そして先生の暖かく、そして燃えるようなバイオリンの音色が浮かんでくる。

ローゼンブリス先生、本当にありがとうございました。先生のこと、忘れません。ご冥福を心からお祈り申し上げます。


ブラームス/クラリネット三重奏の思い出

  • 2008.11.06 Thursday
  • 21:38
JUGEMテーマ:クラシック音楽
今日は大学でリサイタルをしてきた。室内楽である。

音楽科の主任でクラリネット奏者のJと、彼の昔からの友人で、現在ミズーリ州で教鞭を取っているチェリストのCさん(わざわざこのためにカンザスから来てくださった)との共演で、ベートーヴェンのクラリネット三重奏曲作品11と、ブラームスのクラリネット三重奏曲作品114の二曲をやった。

どちらもわりと弾き応えのある曲で、今回はリハーサルが前日のみということもあって、その前にかなりしっかり練習して臨んだ。Jとの共演は二度目なのでわりと気心が知れているが、初めて共演するCさんも実に素晴らしいミュージシャンで、60代のヴェテランに挟まれて、実に楽しく刺激的な演奏だった。尊敬できるミュージシャンと共演する、というのは本当に素晴らしい体験である。室内楽は、多少大変でも、絶対に自分と同等か、それ以上のレベルの人とやるべきである。それでないと、本当に醍醐味は味わえない。

さて、この二曲、特にブラームスには色々と思い出がある。今日はそのことをメインに書こうと思う。ちょっとユニークな取り合わせ(クラリネット・チェロ・ピアノ)だが、私はこれを、ニューイングランド音楽院留学中に勉強する機会に恵まれたのである。もう17年も前のことだ。
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観劇レビュー:Wicked(ミュージカル)

  • 2007.09.24 Monday
  • 22:47
Wicked Poster前日のブログに書いたとおり、急に手に入ったチケットで23日日曜日の夜、ミュージカル「Wicked」を観に行った。場所は近年復活したBoston Opera House。ダウンタウンのMacy'sや旧Filene'sビルの近くにある。日曜日の夜は、このあたり、意外と無料で路上駐車できるスポットが多く、劇場から2ブロックのところに車を停めることが出来た。


Boston Opera Houseこのオペラハウスは1928年にオープンしたそうで、中はいかにも20世紀初頭らしいゴージャスさ。しばらく廃屋状態になっていたのだが、かなりの費用をかけて90年代に復活させたとのことだ。オペラハウスという名前なのにブロードウェイミュージカルばかりやっているのは、クラシック音楽を仕事とする私にとってはやや残念ではあるが・・・。ロビーも綺麗だったし、劇場内(こちらは写真撮影禁止)もヨーロッパっぽくてきれいだった。ステージはわりとこじんまりしているが、客席がやや円形になっており、どこからでも、ステージの全体がよく見えるように設計されているのに感心する。私たちの席も、バルコニーでほぼ右がわの一番端だったが、それでも舞台全体がよく見えた。


さて、このミュージカルは下記の本が原作。私はまだ原作を読んでいないのだが、どうやらこの舞台版よりはかなり暗いブラックな内容らしい。(ブロードウェイミュージカルや映画にアレンジすると、どうしてもそうなってしまうのね・・・)
Wicked: The Life and Times of the Wicked Witch of the West
Wicked: The Life and Times of the Wicked Witch of the West
Gregory Maguire

邦訳はこちら↓
ウィキッド(上) 誰も知らない、もう一つのオズの物語
ウィキッド(上) 誰も知らない、もう一つのオズの物語
ウィキッド(下) 誰も知らない、もう一つのオズの物語
ウィキッド(下) 誰も知らない、もう一つのオズの物語

お話は、かの有名な「オズの魔法使い」の舞台裏話、とでも言ったらいいだろうか。
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音楽:「のだめ」と楽語の微妙な違い

  • 2006.11.21 Tuesday
  • 22:58
「のだめカンタービレ」という、音大生活を題材にした漫画が今人気らしい、ということはネットで前から目にしていた。そして、それがこの秋ドラマ化されたことも。

でも、ネットでわざわざ日本の漫画を買ったり(昔好きだったものをのぞく)、日本のテレビドラマをビデオで借りる(ボストンには何軒かそういう日本人相手のビデオレンタル屋がある)ということを今の私はしないので、自分には縁の無い話だな〜、と読み流していた。

ところが、出入りの読書掲示板でも漫画のファンがけっこういることが判明。そして、ドラマの方も、日本在住の人は数名観ているようで、話題になった。音大出身の私が観たらどういう感想を持つのか興味がある、という話になった。

そこへ、やはりアメリカ在住の方が、
「AZN TVで日曜の夜にやっていますよ」
と教えてくださったのである。

AZN TVとは、ケーブルのチャンネルの一つで、アジアの番組を専門に放送している。中国、韓国、日本、東南アジアなどがそれぞれ決まった時間帯にニュースやバラエティ、ドラマを放送しているのだ。昼間にフジサンケイニュースをやっているらしいが、最近は家でゆっくりテレビを見るのは夫と映画を見るかニュースを見るか、という程度なので、全然チェックしていなかった。そこで、じゃあ話の種に、とビデオで録画してみた。

第三話だったので、設定などはなんだかよくわからなかったけれども(笑)、それなりに面白かった。どれだけリアルか?と聞かれると、私の日本の音大時代ははるか昔なので、ちょっとずれているだろうが、まあ、それっぽい部分もそれなりにあったと思う。見ていて腹が立つとか、「違うだろー」とムキになって突っ込みたくなるようなこともそんなになかったので、まあ上出来なのだろうと思った。ミルヒ役の竹中さん、すごく漫画らしくて良かったです(笑)。
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CDレビュー:ベルベットの歌声

  • 2006.08.10 Thursday
  • 18:49
Everything I Have Is Yours: The Best of the M-G-M Years
Everything I Have Is Yours: The Best of the M-G-M Years

ビリー・エクスタインの歌声に初めて出会ったのは1999年。今の大学で仕事をするようになった年のことだ。一年目はまだ車を持っていなかった私は、当時、近所に住んでいた同僚の車に乗せてもらって通勤していた。当時声楽を教えていたその彼女とは今でもいいつきあいが続いているが、それもおそらく、1年もの間、週に二回、片道1時間半の道のりを一緒にしながら、いろんな話をしたからだろう。

そんなある日、大学のジャズボーカルの先生が私たちに一本のカセットテープをくれた。
「これ、すごくいいから聴いてみて」
帰り道に同僚はそのテープをカーステレオに入れた。

流れてきたその歌声は甘く、リッチでまるで高級なユーロピアンチョコレートのように、心の中で柔らかく溶けていくようだった。そして明晰な言葉。その豊かなバリトンは、オペラも歌わせてみたい、と思ったほどの声量だ。

それがビリー・エクスタインのベストアルバムだったのだ。
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子どもはせっかち?

  • 2006.06.13 Tuesday
  • 20:50
せっかちと言っても、音楽におけるタイミングのお話。

5歳の子どもから50過ぎの男性まで教えているが、子どもと大人では、ピアノを学んでいくプロセスが微妙に違うのでなかなか難しく、またそれが面白さでもある。

子どもたちを教えていて、もちろん才能のある子から、才能は無いけど楽しくやっている子まで、これまたピンきりなのである。しかし、どんな子にもたいてい共通する癖がある。

それは、「間(ま)を待てない」こと。

音楽には、20世紀以降の現代音楽でない限り、必ず「間」がある。それは、それは「フレーズ」があるからだ。文章に段落やセンテンスがあるように、音楽にも必ず区切りがあり、間があり、時として音のない沈黙の部分がある。

4拍子の曲で、ずっと全部の拍子に音があるわけではない。(繰り返すが、20世紀以降の現代音楽にはあえてそういう風にした曲もある)

なので、フレーズとフレーズの間には必ずなんらかの間がある。それはとても短い、ほんの息つぎのようなものだったり、あるいは一定の拍数分の沈黙だったりする。(英語ではRest、日本語だと「休符」とか「お休み」とか)
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ベビーブーマーの音楽

  • 2006.03.16 Thursday
  • 23:54
6月に、グループのコンサートがあるのだが、今回はちょっと趣向を変えて、60年代を中心に、50年代から70年代初めあたりまでのヒットポップスをカバーするショーになる。

シンガーの一人、Mは最年少ながらこの時代のポップスにめちゃめちゃ詳しく、今回は彼女の主導のもとに曲が少しずつ決まってきた。60年代といえば、ありとあらゆるスタイルが出てきた時期。ロックンロールも定着しつつあり、R&Bの黄金時代でもあり、50年代のエルビスに触発され、ビートルズが出現した時期でもある。グループのメンバーが好きだと思える曲で、なおかつ、うちのグループのサウンドに合う曲、ということで、膨大なヒットリストの中から色々と厳選。今回はかなり時間がかかったが、どうやらプログラムが定着したようだ。
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音楽に寄す

  • 2006.03.08 Wednesday
  • 22:59
クラシックの声楽にも色々なジャンルがあるが、私が一番好きなのは、日本で言う「歌曲」、英語で言うArt Songである。

オペラは「演劇」であり、あのスケールの大きさも素敵だが、こちらはいわゆる「室内楽」。ピアノと歌手の立場は対等なパートナーであり、比較的小さな空間で、聴衆とのコミュニケーションも細やかだ。

ドイツ歌曲、フランス歌曲、ロシア歌曲、イタリア歌曲と、それぞれにカラーが違う。中でも抜群に作品が多いのはドイツ。これは、歌聖と言われたシューベルトに負うところが大きい。

31歳で早世するまでに数百曲の歌曲を残したシューベルト。組曲である「冬の旅」「美しき水車小屋の娘」、また、「アヴェ・マリア」や「セレナーデ」なども有名だが、その中に「音楽に寄す」という名曲がある。
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サテライトラジオ

  • 2006.01.17 Tuesday
  • 12:06
昨年のクリスマスに、彼と両親がお互い知らずに同じものを贈り合ったのだけど、それがXMラジオ(サテライトラジオ)用のDelphi Roady XT。今キャンペーン中らしく、同じアカウントなら二台目は無料、受信料も二台で一台半の値段ということで、彼が私の分もオーダーしてくれた。一週間ほど前に到着して、私の車にも取り付けたのである。アメリカのどこにいても聴けるので、長距離の運転でもずっと続けて聴けること、チャンネル数が多くて、好きなジャンルの音楽が必ず聴ける、離れている都市の交通情報も聴ける、コマーシャルがない、などの点が魅力だ。

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元気が出る音楽

  • 2006.01.04 Wednesday
  • 20:06
Earth Wind & Fire - Greatest Hits
Earth Wind & Fire - Greatest Hits
前々から欲しいなと思っていたEarth, Wind & FireのベストヒットアルバムをiTunesで購入。

最近Target(ちょっと小洒落た量販店。インテリアや雑貨など、安いのに馬鹿に出来ないおしゃれなデザインが多く、有名デザイナーを起用するなどして人気がある)のコマーシャルで名曲「September」が流れていて(バンド自体も出演したりしてた)、むしょうに聞きたくなっていたのだった。

車の中で聞いていたら思わず踊りだしてしまいたくなるノリのよさ、70年代ディスコのファンクサウンドの気持ちよさ、もう最高。眠い目をこすって通勤する朝にぜひ聞きたいアルバムだ。それにしても楽器の音が気持ちいい。私はシークエンサーで打ち込んだようなサウンドが苦手で、どうしても70年代から80年代に活躍した実力派バンドの音に魅かれる。ノリのよさとテクニックのバランスの良さが気持ちいいのだ。やはり人間の手と息によって作り出されるサウンドが好き。というわけで、これでまた車を運転する楽しみが増えた。

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また、ボストンの観光などについて個別でご質問をいただくことがありますが、なかなか個別の質問にはお答えする時間がありません。申し訳ありませんが、ボストン関連の掲示板などで質問されることをお勧めします。リンクにボストン情報の掲示板のリンクがありますので、どうぞご利用くださいませ。

最後にこのブログに掲載されている写真、文章などすべての内容の転載は固くお断りします。どうかご遠慮ください。

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